国王杯、作戦会議
王都アズラのドラゴニクス競技場は、朝から異様な熱気に満ちていた。
空気を震わせるドラゴンの咆哮、観客席のざわめき、整備区画にこもる金属音。
世界が一年でいちばんドラゴンに酔う日——国王杯だ。
国王杯。
王国の誇る国技・ドラゴニクスの最高峰にし て、年に一度だけ行われる夢の舞台。
選ばれた6騎が、305kmのクラシックコースを舞台に、たったひとつの栄光を奪い合う。
レイは所属チーム ジークフリードの作戦ルーム で、監督の説明に耳を傾けていた
「まずコース全体だが……今年は風が強い。
特に北側の海上区間は乱気流が増える。油断するなよ」
監督はホロマップの四分割図を指し示す。
①海上区間:強風で平衡感覚が試される。序盤の振り落とし。
②森林区間:木々のあいだを抜ける技巧勝負。接触は失格。
③山岳区間:突風と高度差で体力を削る。勝負の焦点。
④平野区間:障害なし。トップスピードの殴り合い。
ピットインは最大3回まで。
ドラゴンの肉体とエンジンを守るため、配分がすべてを決める。
「最大の敵は……わかるな?」
「ライナルトさん、だろ」
「そうだ。あいつは序盤からの全開逃げ切りが十八番だ。
つられて追ったら、お前とアークの体力じゃ山岳区間まで持たん。
絶対に序盤でブーストを吐くな」
「わかってるよ、おやっさん」
「誰がおやっさんだ。
監督と呼べといつも言ってるだろ」
監督は鼻で笑いながらも、誇らしげに腕を組む。
「……まあ、楽しめ。
今日はお前がこの空の主役だ」
「よーし次は俺の番!」
油の匂いとともに、パトリックが工具箱を抱え て入ってくる。
「アークのブースター、昨日の夜ぎりぎりまで弄った。
出力持続時間が2秒伸びたぞ。すごくね?」
「二秒!? 本気で!?」
「おうよ! ただし.......使いどころ間違えるなよ? 全出力出せば時速300キロを超える。 ドラゴンにも負荷がやべぇ。 平野区間まで温存するのがベストだ」
「わかったよ、パトリック
ありがとうな」
「おう。今日も騎士とドラゴンの力……見せつけてやれ」
作戦会議を終え、レイが通路を歩く。
胸には緊張と興奮がないまぜになった熱が渦巻いている。
その先に、ゆったりと歩くひとつの背中があった。
白銀のマントが風を受け、黄金の髪が淡く光る。
──伝説の騎士。
ライナルト・グローリー・アークレイグ。
レイの足が自然と止まる。
ライナルトは立ち止まり、こちらへ振り返った。
そして柔らかく目を細める。
「約束を果たしたな、レイ」
「……っ! え、覚えて……くれてたんですか!?」
少年の頃の自分が叫んでいた声が、一瞬で胸によみがえる。
『ライナルトさーん!! 絶対に優勝してね!!』
『約束を守るのが騎士だ。任せておけ』
あの日の言葉。
憧れの背中。
レイが騎士を目指した原点。
まさか覚えているはずがない。
ただのファンの少年の声を。
でもライナルトは、軽く笑って言った。
「君の声はよく通った。忘れようがないさ。
それに……本当に約束を守ってここに立った者を、忘れる理由がない」
胸が熱くなる。
言葉が震える。
「……俺、もう……あなたに憧れているだけじゃいられません。
今日はライバルとして飛び、あなたを越える。
約束します」
ライナルトはゆっくり頷いた。
「それでいい。
誇りを持って飛べ、レイ。
──騎士は、約束を守るものだ」
その一言は、少年時代から続く物語を
今日の国王杯へとつなぐ「答え」になった。
ライナルトが歩き去る。
揺れたマントの残り香のように、言葉だけが胸に残る。
レイは拳を握り、アークのいるピットへと走った。




