アンドロイドは夢を見る
【????】
「作戦コード・ゼロフォー。
作戦決行まで──残り八時間。
航空巡航、異常なし。視界クリア」
管制から送られる報告が、輸送機内部のスピーカーを震わせた。
機内は薄い非常灯だけが灯された半暗闇。
外の静寂とは裏腹に、積み込まれた任務の重さだけが圧し掛かっていた。
並んで座る人影──いずれも“人間らしさ”を欠いた無機質な兵器。
電源を落とされ、拘束具に固定されたアンドロイド兵たちが、冷たい仮眠を取っている。
胸部装甲には識別コードが刻まれ、射出口や関節部は封鎖モードのまま。
今はただの物体だが、起動すれば一個小隊を壊滅させる力を持つ。
その列のただ中に、一体だけ“異質な存在”があった。
少女の姿をした兵器。
膝に両手を置き座っている。
だが他のアンドロイドと違い、完全な無ではない。
わずかに震える指先。
焦点の合わない瞳。
何かを押し戻そうとしている意志のような気配だけが、かすかに体に残っていた。
機体が空気の層を突き抜け、小さく振動した。
「降下ルートに変更はない。
王国アズラ上空の気流は安定。作戦遂行に支障なし」
管制官は淡々としている。
機内の者たち──いや、者ではない兵器たちは、誰一人反応を見せない。
ただ、少女だけがわずかに眉を寄せた。
「……ぁ……」
かすかな息が漏れた瞬間──
輸送機後部でロックがひとつ外れる音が響いた。
カチッ……
赤い警告灯が点滅へ切り替わる。
「兵装チェック開始。
一次起動シーケンス、スタート」
アンドロイド兵たちの胸部ラインが青く発光し、
まるで一斉に“目覚める”ように、首がカクりと上がっていく。
無表情の顔が並ぶ光景は、軍事作戦というより黙示録の前兆だった。
ただ一体──少女だけは沈黙を保ったまま。
しかしその肩は、誰にも気づかれないほど微かに震えていた。
──自分の内部で、別の何かが立ち上がろうとしている。
少女の震えは、恐れか、拒絶か、あるいは……。
「作戦決行まで、あと七時間五十三分」
アナウンスが淡々と告げる。
軍事作戦の夜は、ゆっくりと完了へ向けて組み上がっていく。
そしてこの静かな空の上で、
世界の歯車は確かに──狂い始めていた。




