おてんば姫と愉快な仲間たち
【ザラフ首長国 首都サファリヤ】
砂漠の風がふわりと吹き抜け、古い寺院に吊られた鈴が澄んだ音を鳴らした。
王国アズラへ向かう出発を前に、
首長国大統領の娘
セシリア・シャリフ ァ・アル=アディールの旅の安全を祈る儀式が淡々と続く。
「……ふぁぁ……ねむ……」
豪奢な儀礼衣のまま大欠伸。
足元の神獣クアール──アーシャまで、つられて口を開ける。
「姫様、儀式中でございます!」
侍女カトレアの注意にも、セシリアは「はいはい」と背筋を伸ばすだけ。
荘厳な空気と彼女の緩さが、見事に噛み合っていなかった。
カトレアは小声で続ける。
「姫様は、明日の国王杯に“国賓”として正式に招待されているのです。
王国でも注目されておりますから、もう少し……品位をですね……」
「わかってるってば。ちょっと眠いだけだよ〜」
セシリアは全く聞いていない様子で、アーシャの髭をいじり始める。
「姫様……っ!」
カトレアのため息が寺院に静かに溶けた
──そんな様子を、寺院の柱の陰から二人の男が覗いていた。
「あいつ肝が座ってるな。
将来、女傑になるぜ」
ゲンが愛刀を抱きながら腕を組んで苦笑する。
横のヴァレンティノは、軽く頷きながら目元だけ和らげた。
「ああ、彼女は人を引きつける。
そういった類の天才だからね」
「まああれだ。
もうちょっと、おしとやかだといいんだけどな」
「ううん。それでこそセシリアだよ。
おてんば姫だからこそ変えられる世界があるのさ」
ふたりは声を張ることもなく、ただ軽口を交わす。
呼び止めるつもりも、近づくつもりもない。
ただ、出発前の顔をひと目見に来ただけ。
すっと柱の影から離れ、静かに歩き去る。
その頃セシリアは、気づく気配もなく、
あくびをこらえながら儀式を乗り切ろうとしていた。




