銀髪の少女
ライナルト達と別れたあと、
セシリアたちは王城前の大通りを走っていた。
その時上空にドラゴンに乗った竜騎士が現れた。
先ほどまでライナルトと一緒にいた男だ。
セシリアたちの前に降り立ち、笑顔で告げる。
「セシリア様。
ドラゴンにお乗りください。
私が安全圏までおく⋯り――」
言葉は、途中で断ち切られた。
空気を裂く金属音。
次の瞬間、竜騎士の胴が、糸で断たれた人形のように崩れ落ちた。
「……え?」
頭上から降りてきたのは、蜘蛛のような影。
八本の脚。
人型の上半身。
腹部から伸びる鋼糸が、まだ血を滴らせている。
――アラクネ型。
愛竜が咆哮する間もなかった。
鋼糸が絡みつき、関節を引き裂き、巨体が地に叩きつけられる。
「――っ!」
セシリアの喉が、音を失う。
彼女を庇うように前へ出たのは、カトレアだった。
「姫様には――
指一本、触れさせません!!」
腰に携えたシャムシールを構える。
声は強い。
だが足は、恐怖に震えていた。
アラクネ型が、嘲るように脚を鳴らす。
――その瞬間。
銀の閃光が、横合いから突き刺さった。
蜘蛛の脚が、一本、音もなく切断される。
「……?」
全員の視線が、同時にそちらへ向く。
瓦礫の上にあったのは、
銀髪の少女の後ろ姿だった。
人の姿。
だが、動きが“人間のそれ”ではない。
次の瞬間。
少女は空間を滑るように踏み込み、
肘で関節部を破壊し、
回転しながら踵で腹部装甲を砕く。
火花。
断線音。
アラクネ型は悲鳴すら上げられず、崩れ落ちた。
「……制御干渉、検知」
少女の瞳が淡く発光する。
「外部リンク、遮断。
自己判断モードへ移行――」
一拍。
「――ここからは、私の意思で動く」
完全に沈黙したアラクネ型を背に、少女は振り返った。
「……助けてくれたの?」
セシリアの問いに、少女は短く首を振る。
「まだ終わっていない」
「こんなの⋯間違ってる⋯」
無機質だが、力強さを感じる声だった。
次の瞬間、路地の奥から赤い光がいくつも浮かび上がる。
アンドロイドの群れだ。
数、二十以上。
少女は一瞬だけ、敵の配置を計測する。
(個体性能では問題なし。
だが、同時対応数が閾値を超える)
彼女は、初めて後方を見る。
「あなた達、戦える?」
カトレアが何か言おうと口を開いた、その瞬間。
「もちろん!」
セシリアが、一歩前に出た。
「見てるだけなんて、嫌!
ここでやらなきゃ――王家の名がすたるわ!」
そう言って、アーシャの髭を容赦なく引き抜く。
「ニャー!?」
悲鳴を上げるアーシャ。
「文句言わないの!
どうせ明日には生えてくるでしょ!?」
なにか言いたげなアーシャ。
抜かれた髭は瞬時に雷を宿し、鞭へと変わる。
「姫様!危険です!
おやめください!」
カトレアの叫び。
だがセシリアは引かない。
「どうせ死ぬなら、戦って死ぬわ!」
銀髪の少女は、淡々と告げる。
「来る」
次の瞬間、
戦場が弾けた。
先陣を切ったのは、セシリアとアーシャ。
雷を帯びた鞭が空を裂き、
アンドロイドの装甲を焼き切る。
マキナは、その横を猛スピードで追い越す。
一体、二体、三体。
殴打、破壊、投擲。
セシリアが一瞬、足を取られる。
刃が迫る。
――カトレアの剣が、割って入る。
「姫様!」
その隙を、アーシャが逃さない。
雷撃が叩き込まれ、敵は沈黙する。
気づけば――
最後の一体を、マキナが粉砕していた。
「……制圧完了」
静寂。
「勝った……のね!」
セシリアが息を弾ませる。
「全く!
無茶は控えてください……!」
カトレアが苦言を呈する。
その会話を、マキナは背に聞きながら――
別の“音”を拾っていた。
人間には届かない距離。
瓦礫の向こう。
(⋯悲鳴⋯二人⋯子供)
静かに分析する銀髪の少女。
「……あなた達は退避して」
それだけを残し、
"彼女"は目にも止まらぬ速度で、闇へと消えた。
人でも、機械でもない存在が、
また誰かを守るために。




