初陣
瓦礫の向こうから、金属が地面を削る音が重なって響いた。
赤い光が、闇の中で瞬く。
五体。
距離、約三十メートル。
「……来るぞ」
ダンの声は低く、感情の揺れがない。
銃を構え、視線だけで敵の配置をなぞる。
「了解。じゃ、みなさま張り切ってどうぞ!」
キースは軽い調子で言いながらも、すでにハンドガンを両手で構えていた。
前髪の影に隠れた目だけが、獲物を射抜く色になる。
レイは剣を握り直した。
喉が鳴る。
心臓が、速い。
(……やるしかない)
一歩、踏み出す。
次の瞬間、レイは“走っていた”。
自分でも驚くほど、迷いがなかった。
瓦礫を蹴り、低い姿勢のまま敵陣へ突っ込む。
「おっ……」
キースが思わず声を漏らす。
アンドロイドの一体が反応し、刃を展開する。
レイはそれを真正面から受けなかった。
半身でかわし、すれ違いざまに剣を振る。
――ガキンッ!!
火花。
装甲が裂け、内部のフレームが露出する。
(当たった……!)
驚く暇もない。
次の一体が横から迫る。
レイは踏み込んだ足を軸に、身体をひねった。
ドラゴンの背で覚えた感覚。
重心を預け、風に乗るように――
剣閃が弧を描き、アンドロイドの関節を断つ。
崩れ落ちる金属。
「まじかよ……」
キースが素直に驚いた。
「やるじゃないの!」
ダンは無言。
だが銃口の動きが、わずかにレイを追う。
(三体目……!)
背後から、重量級の個体が突進してくる。
レイは直感で跳んだ。
間一髪。
地面に刃が突き刺さる。
その隙に、レイは剣を振り下ろす――が。
「……っ!」
浅い。
装甲を断ち切れず、刃が弾かれた。
「おっと危ないよー」
軽い声と同時に、銃声。
パンッ!
アンドロイドの頭部が砕け、倒れる。
「後ろ、がら空き」
キースは笑っているが、視線は鋭い。
「今のは完全に死んでたね」
レイは息を荒くしながら、歯を食いしばる。
(……しまった)
四体目。
動きが速い。
レイは迎え撃つが、わずかに踏み込みが遅れる。
剣を振る――
しかし、致命打にならない。
その瞬間。
ダンが前に出た。
無駄のない動き。
一発。
関節部。
アンドロイドが崩れ落ちる。
「……予想以上に動けるな」
ダンは淡々と言う。
「だが、剣の軌道が甘い。
力任せになり始めてる」
「……すみません」
「謝るな。生きていれば修正できる」
そのとき。
遠くで、かすかに光が反射する。
「……スナイパーか」
ダンが即座に判断する。
瓦礫の影。
赤い光が、こちらを捉えていた。
だが――
影が、音もなく近づく。
低く、速い。
「……」
スナイパーは気づかなかった。
自分の背後に“何か”がいることを。
次の瞬間。
黒い影が跳ぶ。
――アポロ。
喉元に噛みつき、引き倒す。
ダンが二発、正確に撃ち込む。
撃破。
「ナイス連携」
キースが短く言う。
残る一体。
三人で包囲する。
レイが正面。
ダンが右。
キースが左。
「行け」
ダンの一言。
レイは深く息を吸い、踏み込んだ。
剣を振る。
今度は、迷いがない。
刃が、確かに核心を断った。
最後のアンドロイドが崩れ落ちる。
静寂。
レイは、その場に座り込んだ。
膝が震える。
腕が重い。
「初陣でこれは上出来だ」
ダンが言う。
「いやー、ほんと。
俺たちの初陣より派手だよ」
キースが軽く笑い、肩をすくめる。
「ただし」
ダンが続ける。
「このまま一人で突っ込むな。
次は助けきれない」
レイは頷いた。
胸の奥で、いろいろな感情が渦巻いていた。
恐怖。
高揚。
そして――使命感。
「……先を急ごう」
ダンが背を向ける。
「待ってるヤツがいるんだろ?」
レイは立ち上がり、剣を握り直した。
(……アーク、みんな
必ず見つける)
三人は、瓦礫の奥へと歩き出した。




