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ドラゴンでレースしたら王都が滅びた  作者: じじじ
王国編

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18/23

地獄への入口

 ——冷たい。


 それが、最初の感覚だった。


 背中に伝わるのは、石と金属の硬さ。

 鼻を刺すのは、焦げた油と粉塵の匂い。


「……っ……」


 レイは、ゆっくりと瞼を開けた。


 視界に映ったのは、崩れ落ちた観客席の残骸。

 鉄骨がねじ曲がり、巨大な瓦礫が折り重なっている。


「……ここは……?」


 声を出そうとして、喉がひどく渇いていることに気づく。

 思考が、うまく繋がらない。


(……レース……?)


 断片的な映像が、頭の奥で瞬いた。


 風を切る感覚。

 視界を埋め尽くす空。

 限界まで振り絞った意識。


「……どうなった……?」


 ゴールは——見えた気がする。

 だが、その先が、どうしても思い出せない。


 まるで、途中で糸を断ち切られたようだった。


「……アーク……?」


 名前を呼んだ瞬間、胸の奥がざわつく。


 上体を起こし、必死に周囲を見回す。


「……アーク!!」


 だが、白銀の翼はどこにもない。

 巨大な影も、琥珀色の瞳も、見当たらなかった。


 代わりに——


 瓦礫の隙間の向こうで、赤い光が瞬いた。


「……?」


 次の瞬間、それが“目”だと理解する。


 人の形をした影。

 剣を携え、無機質にこちらを向いている。


「……なんだ……あれ……」


 頭が理解するより早く、体が恐怖を覚えた。


 赤い光が、正確にレイを捉える。


 ——認識された。


 アンドロイドが、一歩踏み出す。


 剣を、構える。


「……っ……!」


 後ずさろうとして、足が言うことをきかない。


 腰が抜け、その場に倒れ込む。


(……立て……立てよ……!)


 だが、体は動かない。


 振り下ろされる剣。

 反射的に目を閉じた、その瞬間——


 閃光。


 乾いた銃声が、瓦礫の間に響き渡った。


 次の刹那、金属が砕ける音。


 恐る恐る目を開けると、アンドロイドの頭部が粉砕され、火花を散らして倒れていた。


「大丈夫か?」


 低く、落ち着いた声。


 視線を上げると、眼鏡をかけた男が立っていた。

 銃を構えたまま、周囲を鋭く警戒している。


 その手が、差し出される。


「……え……?」


 戸惑うレイ。


 だが、その瞬間——


「伏せろ!!」


 男の声が鋭くなる。


 背後。


 別のアンドロイドが、剣を振りかぶっていた。


 ——間に合わない。


 そう思った瞬間、横から再び閃光が走る。


 弾丸がアンドロイドの腕を撃ち抜き、剣ごと吹き飛ばした。


「危ないっての」


 軽い声。


 振り向くと、長身の男が銃口から立ち上る煙を吹き消している。


 その足元から、黒い影が飛び出した。


 犬のような姿の神獣が、唸り声とともにアンドロイドへ飛びかかる。

 関節部に噛みつき、次の瞬間、金属音とともに沈黙させた。


「……っ……」


 言葉を失うレイ。


「……あれ? 君……」


 長身の男が、にこりと笑う。


「騎士だよね?

 レイくん、だっけ?」


 その口調は軽いが、目だけは笑っていない。


「さっきのレース、すごかったよ」


 銃口の煙を吹きながら、男は続ける。


「自己紹介しとこうか。

 俺はキース。AIDA所属」


 親指で隣を示す。


「こっちがダン。

 それから——フェンリルのアポロ」


 アポロが低く鳴いた。


「……AIDAの……」


 視線を瓦礫と、倒れた機械の残骸へ向ける。


「……これは……一体……?」


 ダンが短く答える。


「詳細はまだ掴めていない。

 だが、計画的な武力行使だ」


 冷静な声音。


「俺たちは、ある要人を探している」


 一瞬だけ、言葉を区切る。


「君は、一刻も早くこの場を離れた方がいい」


 レイは、唇を噛んだ。


「……無理だ」


 思ったより、はっきりした声が出た。


「……アークがいない。

 俺の相棒が……」


 拳が、震える。


「チームの仲間たちもだ。

 たぶん、まだピットの方に……

 俺だけ逃げられない」


 ダンが、即座に言う。


「みすみす死ぬぞ」


 その言葉は、脅しでも忠告でもない。

 事実だった。


 だが——


「……戦える……」


 レイは、息を吸い込む。


「騎士の養成所で、基礎は学んだ。

 ……俺も、戦える」


 キースが、少しだけ表情を和らげる。


「……だよな」


 足元に落ちていた剣を拾い上げる。


 先ほどのアンドロイドが持っていたものだ。


「じゃあさ」


 それを、レイに差し出す。


「その剣で戦える?

 俺たちの探し人、君の相棒の近くにいるかもしれないし、一緒に来る?」


 レイは、黙って剣を受け取った。


「おい」


 ダンが、キースを制する。


「……まあまあ」


 キースは肩をすくめる。


「ここから先、一人で動くよりマシでしょ」


 ダンは押し黙り、顎に手を当てる。


 数秒の沈黙。


 やがて、レイを見据える。


「……ここから先は地獄だ。

 覚悟はできているか?」


 レイは、剣を強く握りしめた。


「ああ……」


 その瞬間——


 瓦礫の向こうから、複数の赤い光が浮かび上がる。


 新手のアンドロイドたちが、静かに姿を現していた。


 戦場は、まだ始まったばかりだった。

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