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ドラゴンでレースしたら王都が滅びた  作者: じじじ
王国編

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13/23

おてんば姫の本領発揮

「ねー、トイレ行きたい!」


 セシリアの唐突な宣言に、空気が一瞬止まった。


「ひ、姫様っ! はしたないです!」


 即座に噛みつくように叱るカトレア。

 だがセシリアは気にも留めず、そわそわと足踏みしている。


「どこどこ? 今すぐ!」


「……向かいの通路を抜けた先だ」


 キースが指で小さく示す。


「少し距離はあるが、案内できる」


 その言葉を聞いたダンが即座に口を挟んだ。


「護衛が必要だ。キース、一緒に行ってやれ」


「了解――」


「やだ!」


 被せるようにセシリアが叫ぶ。


「男の人とか無理! 変態!」


「覗いたりなんかしねぇよ!? なあダン!」


 キースが慌てて同意を求めるが、ダンは視線をモニターから外さない。


「…………」


「ちょ、ちゃんと否定してくれよ……」


 肩を落とすキース。


「ご不浄までは、私が付き添います、よろしいですか?」


「あなたなら大丈夫でしょう」

 カトレアの腰に携えたシャムシールに目線を向けてダン言う。


「参りましょう、姫様」


「はーい」


 軽い返事とともに、セシリアは歩き出す。  アーシャも尻尾と髭を揺らしながら、その後を追った。


 通路は、観客席の熱気が嘘のように静かだった。


 前を歩くセシリア。  少し距離を取って後ろを守るカトレア。


「……ねえ、カトレア」


 進行方向を見つめたまま、セシリアがぽつりと彼女の名前を呼ぶ。


「なんでしょうか、姫様」


 次の瞬間。


 セシリアが振り返り、にかっと笑った。


「ちょっとチキン買ってくるね!」


「――え?」


 言い終わるより早く、セシリアは走り出していた。  アーシャも嬉しそうに後を追う。


「ひ、姫様!?」


 対応が一拍遅れたカトレアが、慌てて声を張り上げる。


「姫様ー! お待ちください!」


 通路には誰もいない。  助けを求めて周囲を見回すが、応答はない。


「だ、誰か! 姫様を止めてください!」


 走りながら、セシリアはドレスの留め具を外した。


 ひらりと布が落ち、中から現れたのは、タンクトップと短パン。


 きらびやかな姫君の装いは消え、  そこにいたのは――ただの、わんぱくな少女だった。


「ふふっ……うまく巻いたわね」


 壁際で一息つき、肩で息をする。


 顔を上げると、視界の先に広がる観客席。  巨大モニター、轟く歓声、空を切るドラゴンたち。


「すっご……」


 胸が高鳴るのを抑えきれない。


「ねえ、アーシャ」


 足元の相棒に声をかける。


「あそこ、屋台だよ!」


 アーシャがヒゲを揺らしながら頷く。


「ファイアーブレス味、まだありますか!?」


 屋台の前に滑り込むようにして、セシリアが台を叩く勢いで身を乗り出す。


「お嬢ちゃん、運がいい!」


 脂のはねる音の向こうで、店主が豪快に笑った。


「ラスト一個、残ってるよ!」


「ほんと!? ください!」


 即答だった。


 紙袋を受け取った瞬間、セシリアの顔がぱっと明るくなる。


「やったー!」


 思わずよだれを垂らしかける勢いで、チキンを掲げる。  横ではアーシャが期待に満ちた目でヒゲを揺らしていた。


「アーシャも食べたい?」


 しゃがみ込み、目線を合わせる。


「半分こしよっか」


 そう言ってチキンをちぎろうとした、その時だった。


 ――後ろから、控えめな声が聞こえた。


「……あの、ファイアーブレス味……」


 振り返ると、小銭を握りしめた幼い兄妹が立っていた。  少し汚れた服。遠慮がちに屋台を見上げる兄と、その影に隠れるような妹。


「まだ、残ってますか……?」


 不安げな問いに、店主が首を振る。


「悪いね。今ので完売だ」


「……そっか」


 妹が目を潤ませる。


「食べたかったよー……」


「また来年にしよう」


 兄が必死になだめるが、その声も少し震えていた。


 そのやりとりを、セシリアは黙って見ていた。


「あのー」


 間に割って入る。


「よかったら、これ食べる?」


 手に持ったチキンを差し出した。


「うん。お姉ちゃん、もうお腹いっぱいでさ」


 兄妹が目を見開く。


「え、いいの……?」


「いいよ、お姉ちゃんの代わりに食べてくれると嬉しいな」


 首をかしげ優しく笑う。


 アーシャが「えっ」という顔をするが、セシリアは気づかないふりをした。


「……ありがとう! ありがとう、お姉ちゃん!」


 何度も頭を下げる兄妹。  チキンを抱えて、嬉しそうに駆けていく。


 少し離れたところで、振り返り、大きく手を振った。


「ばいばーい!」


 セシリアも腰に手を当て、にっと笑い返す。


「はいはい、気をつけてねー」


 その横で、アーシャが不服そうにセシリアを見上げる。


「……ごめんごめん」


 頭を撫でる。


「また今度、一番大きいの買ってあげるから」


 アーシャは納得いかない顔のまま、ヒゲをしゅんと垂らした。


 だが、セシリアの表情は晴れやかだった。

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