好敵手
二回目のピットイン。
レイとライナルトが同時に競技場上空を旋回し、そのままピットへと滑り込む。
歓声が、今度は少しだけどよめきに変わった。
──あのライナルトと並んでいる⋯
ジークフリードのピットクルーが一斉に動く。
冷却、給油、機械部の再調整。
そして、山岳地帯用ウィングへの換装。
ブースターを切り札として使った代償は、明らかだった。
アークの呼吸は荒く、レイ自身も肩で息をしている。
「……ちっ」
監督が帽子を叩きつけるように外した。
「ばかやろう……むちゃしやがって」
「こうでもしなきゃ、
ライナルトさんには追いつけねえ⋯」
息を切らしながら、静かに、しかし力強くレイは答えた。
一瞬、ピットが静まった。
監督は歯を食いしばり、レイを睨みつける。
だが次の瞬間、表情を切り替えた。
「……次は山岳地帯だ」
低く、現実を叩きつける声。
「山岳波、突風、気圧変動。
あそこはな、機械も理論も役に立たねえ」
レイの視線が、まっすぐ監督を捉える。
「俺たちは、サポートできない。
頼れるのは──」
一拍。
「騎士のお前の“勘”だけだ」
ウィングの換装が完了する。
山岳用に角度が変えられ、耐圧フレームが追加された無骨な翼。
レイはアークの首を叩きながら言った。
「わかってるよ、おやっさん!
行くぞ、相棒!」
アークが低く咆哮する。
助走もそこそこに、レイとアークは空へ飛び出した。
「だから監督と呼べって言ってんだろうがー!!」
背中に向かって、監督の怒鳴り声が飛ぶ。
その横で、パトリックは黙ってモニターを見つめていた。
表示される各部数値。
換装されたウィングの角度。
消耗したブースターのログ。
(……かなり無茶をしてる)
集中力が一瞬でも切れれば、
山に叩き落とされる。
(頼んだぞ、レイ)
パトリックは、誰にも聞こえないように呟い た。
一方グローリーのピットに、重厚な影が滑り込む。
ユランが翼をたたみ、地面に爪を立てた瞬間、周囲の空気が一段重くなった。
さすがのライナルトも、呼吸は深く、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
だが――その口元は、わずかに吊り上がっていた。
「……ふう」
一息つくライナルトに、グローリーの監督が歩み寄る。
「珍しいな。ここで並ばれるとは」
視線はモニターへ。 そこには、ジークフリードの名と、レイ・ガーレットの表示。
「それにしても……あの若造」
監督は鼻で笑う。
「無茶苦茶な飛行をしやがる。
切り札をこんなところで切るとはな」
ライナルトは、否定しなかった。
むしろ――
「面白いじゃないか」
短く、だがはっきりとした声。
「……面白い?」
監督が怪訝な顔を向ける。
「久しぶりだ」
ライナルトは、ユランの首筋に手を置いた。
「こんなにも胸が高鳴るレースは」
その横顔は、いつもの“王国の伝説”ではない。
まるで初めて空を飛ばせてもらった少年のような、純粋な表情だった。
「……お前がそんな顔をするの、初めて見たよ」
監督が呆れたように言う。
ライナルトは小さく笑う。
「好敵手に巡り会えた」
一拍。
「ならば、私も全力で彼を潰す」
淡々とした言葉。 だがそこに、油断や慢心は一切なかった。
「それだけだ」
ウィングの調整完了を知らせる合図が鳴る。
ライナルトは再びヘルメットを被り、ユランの背に跨った。
「行くぞ」
ユランが低く吼える。
そして再び空へ飛び立つ
次の瞬間、二頭のドラゴンがほぼ同時に空へ。
山岳地帯へ向けて飛び立つ。
伝説と、新星。
好敵手同士の勝負が、ここから始まる。




