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ドラゴンでレースしたら王都が滅びた  作者: じじじ
王国編

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10/23

閃光のライナルト

レースが始まった。


巨大な競技場の上空に設置されたメインモニターが一斉に切り替わり、

六騎のドラゴンを真上から捉えた映像が映し出される。


観客席からどよめきが起こった。


『さあ始まりました国王杯・クラシックルール!

 三百五キロ、レギュラーシーズンでは考えられない耐久レース!

 ただ速いだけじゃ勝てない、知力と判断力の勝負です!』


実況の声がスタジアム全体に響く。


『各騎、ピット離れから進入完了!

 高度・進路、すべて規定ラインに乗せて——スタートッ!』


合図と同時に、蒼い閃光が弾けた。


「——速っ……!」


モニターに映る数値が跳ね上がる。


開幕早々、ライナルトとユランが一気に加速。

他のドラゴンが体勢を整える前に、すでに数竜身分の差を作っていた。


『出たァ!ライナルト十八番!

 序盤からの超高速展開!逃げる!逃げる

 まるで稲妻だ!閃光のライナルト!』


「……すげぇ

 でも負けらんねえ!」


レイは歯を食いしばる。


アークの首元に視線を落とすと、

装着された計器に淡く光るホログラムが展開されていた。


立体的に描かれたコースライン。

前後左右だけじゃない——高度まで指定された、三次元のルートだ。


「見えるか、アーク。

 ここからは“空の道”だ。外れたら終わりだぞ」


アークが低く鳴く。


『現在トップ、ライナルト!

 その後方、第二集団が追いますが——差が広がる!

 十竜身!いや、十二!』


競技場上空区画を抜け、映像が切り替わる。


次に映し出されたのは、

切り立つ断崖と、その先に広がる海原。


『さあ第一の難所!海上区画に突入!

 断崖から吹き上げる不規則な上昇気流!

 平衡感覚を狂わせる、クラシック名物です!』


「……ここだ」


レイは息を詰める。


崖に当たった海風が跳ね返り、

空気がねじれるように渦を巻いている。


この区画は、

“突っ切る”のではなく、

風に乗って滑空するのが正解だ。


だが——


『おっと!?第三集団!

 ガミジ・ブレイヴス、姿勢を崩したぞ!?』


モニターの端で、一騎が大きく揺れた。


上下の感覚を失ったのか、

ドラゴンの翼が空を掴めない。


「まずい……!」


次の瞬間、巨体が横倒しになる。


『——墜落!海面に激突!

 これは痛い!即座に救助が入ります!』


白波が立ち、画面が一瞬揺れる。


スタジアムが静まり返る。


だが、レースは続く。


『先頭は変わらずライナルト!

 見てくださいこのライン取り!

 まるで風そのものだ!』


モニター中央。

ライナルトとユランは、乱流の“芯”を正確に捉えていた。


速い。

いや、読み切っている。


「……あの人は、風を知ってる」


レイは前を見る。


「アーク、行くぞ。

 気流は三秒遅れで変わる。今だ」


レイがルート表示を睨み、

指定高度よりわずかに下を狙う。


アークが翼角を調整し、

上昇気流の“縁”に身体を滑り込ませた。


——浮く。


だが、制御できている。


『おおっと!ジークフリード隊、うまく乗せた!

 ルーキーとは思えない判断力!』


海上を滑空するように抜ける。


視線の先。

遥か前方に、青い影。


ライナルト。


『現在トップとの差は——十竜身!』


観客席がざわめく。


だが、レイは焦らない。


「まだだ。

 このレースは長い……我慢だぞ、アーク」


アークが短く咆哮する。


三百五キロの戦い。

まだ、最初の区画を越えただけだった。



一方その頃、VIP席では


---


 「すごい……! 見てアーシャ! 今の旋回!」


 セシリアは身を乗り出し、巨大モニターにかじりつくようにレースを見ていた。

 歓声に合わせて無意識に体が前へ前へと出ていく。


 アーシャが、前脚をセシリアの肩にかけ、頭をそのまま彼女の頭の上に乗せ、一緒になって応援している。


「あの青いドラゴン速い!

すごいね!アーシャ」


 ヒゲが、ぴしっと前を指す。


「……ヒゲで応援するな」


 低く呟くダン。


「姫様! はしたないです! もう少しお控えください!」


 慌てて止めに入るカトレアに、セシリアは不満げに振り返る。


「だって面白いんだもん。ほら、今抜いたよ!」


「面白いかどうかの問題ではありません!」


 そのやり取りを横目に、ダンは小さく息を吐いた。


 ……やれやれ。


 ふと、隣を見る。


 キースがいた。


 ——ポップコーンを食べていた。


「……」


「……」


「……キース」


「ん?」


「任務中だぞ」


「いやー、国王杯だぜ? 雰囲気大事じゃん」


 特大のバケツを差し出してくる。


「一つ食べる?」


「……結構だ」


 きっぱりと言い切るダン。


 その瞬間だった。


 ——視線を感じた。


 ダンは、反射的に観客席の奥を見る。


 ざわめきに紛れ、

 人々が皆モニターを見上げる中——


 一人だけ、違った。


 黒装束の男。


 フードを深く被り、観客席に背を向けるように立ち、

 空を見上げている。


 まるで、

 レースでも、ドラゴンでもなく、

 **“もっと別のもの”**を見ているかのように。


 目が合った。


 次の瞬間、男は口元だけで、にやりと笑った。


 そして何事もなかったかのように背を向け、

 人混みに紛れて立ち去っていく。


「……」


 ダンは目を細め、即座に通信を入れた。


『こちらセイブレン。黒衣の不審者を確認。

 念のため、周辺警戒を強化してくれ』


『了解』


 思い過ごしであればいい。

 だが——胸の奥に、嫌な引っかかりが残る。


 視線を戻すと。


「はい、あーん」


 キースが、ポップコーンをセシリアの口に運んでいた。


「おい」


「あむ。……おいしい!」


 アーシャもヒゲでポップコーンを器用に食べている。


 パク、パク。


「……」


 ダンは額を押さえた。


 騒がしい。

 だが、今はまだ——


 この平和が、

 壊れる予感だけが、

 静かに忍び寄っていた。

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