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思い出のオルゴールは錆びついて

作者: モモル24号


 木枯らし舞う季節になり、私は想い出を閉じ込めた古びたトランクを開ける事になった。中には昔交際していた時の手紙や年賀状を束ねたものや、埃を被った小さな木の箱が眠っていた。


 箱の中の猫型の木彫人形。それは私と彼⋯⋯和也との思い出そのものだった。


 和也は手先が器用で、いつも私を驚かせるようなものを作ってくれた。私たちがまだ学生だった頃、クリスマスが近づくと彼は目を輝かせて「最高のものを作ってあげる」と私に言った。


 和也が私に差し出したのが、この手作りのオルゴールだった。


 猫の尻尾を回すと、繊細な音色で私の好きな音楽が緩やかなテンポのオルゴールの音色で流れ出す。


 和也は照れながら「世界に一つだけだよ」と笑った。人形の木肌は滑らかで、底蓋には二人のイニシャルが丁寧に彫られていた。最高のギフト(贈り物)に私は幸せだった。



 忙しい日々。オルゴールの音色にゆっくり身を委ねる日は中々訪れる事はなかった。


 だから年末になると私たちはオルゴールを鳴らし、未来を語り合った。音色はいつも、希望に満ちていた。


 しかし‥‥運命は残酷だった。和也は卒業後、遠い町へ就職が決まった。


 和也は慣れない環境下でも、まめに手紙や年賀状を送ってくれた。でも次第に連絡はメールで手軽に簡素になり、最後は別れを告げるメッセージになって終わった。理由を尋ねることもできず、私の心は真冬の湖のように凍りついた。


 私はオルゴールをしまい込み、開けることはなかった。流れる音色が、幸せだった日々の記憶を呼び覚ますのが怖かったのだ。


 何年もの月日が流れたある日、私にも再び春が訪れていた。気の合う優しい人に出会い、付き合う内に一緒に暮らす事になったのだ。

 

 オルゴールや年賀状、想い出の詰まった古びたトランクは私の未練だった。優しい彼は私の過去を一緒に受け入れてくれた。


 この人なら大丈夫、そう思い結婚して、新たな家族が増えた。そして引っ越す事になった私は過去の清算を思い立つ。



 震える手で処分の為に猫型のオルゴールを取り出した。湿気と放置のせいで少し黴臭く、尻尾は回すが流れるはずだったオルゴールの音色は、永遠に止まったままだ。


 廃棄を躊躇う私の横から幼い娘がやって来てパッと猫型のオルゴールを手に取った。


「猫しゃん!」


 握りしめる娘の手からオルゴールを取り返すのが酷に思えて、仕方なく私は年賀状や手紙だけ処分した。


 私ではなく、娘の為にオルゴールが音色を奏でる日が来るのかもしれない。

 お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
なろラジの季節がやってきましたね\(^o^)/ オルゴールは素敵なメロディが流れるでしょう。そして猫は捨てられない(՞•∞•՞)←猫グッズ、犬グッズ大好き人間です。
オルゴール、思い出になったのね(*´ω`*) 切ないけど良き♡ ステキなお話でした!
離そうとして離れなかったモノ、繋がってしまう事に複雑な思いがありそうな……。娘のために、処分の決断を見送るのも、母ゆえなのか……。 猫しゃんに罪はないよね!←猫(製品)に甘過ぎw
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