それぞれの過去
高校の放課後。教室の窓から見える校庭は、静けさの中に賑やかな声が溶け込んでいた。響はいつものように、席に座ったまま窓の外を眺めていた。そこには、楽しそうに友達と話す奏多の姿があった。
奏多の笑顔は、まるで太陽のように明るく、あたたかくて、それだけで周りの人たちを幸せにするような力を持っている。響はその笑顔が向けられることがなくて、ただ遠くから見つめていることしかできなかった。
見つめるたびに胸が締めつけられるように痛む。奏多の笑顔を見ていると、自分がどれだけ彼に惹かれているのかを痛感する。でも、どうしてもその気持ちを口にできなかった。
奏多は響の近くにいる。でも、その距離は物理的なものだけではなかった。心の距離がどんどん広がっていくように感じた。響の心はその距離に引き裂かれそうだったけれど、どうしても一歩踏み出せない自分がいた。
放課後の静かな教室で、響はいつものように窓際に立っていた。友達たちが帰り支度をしている中、奏多は友達と楽しそうに笑い合っていた。その笑顔を見ていると、胸の中で何かが切なくて、もう耐えられなくなりそうだった。
彼の笑顔は、どんな言葉よりも響の心に響いてくる。それが嬉しくもあり、切なくもあった。だが、その笑顔を向けられることはなく、響はただその背中を見つめるだけだった。
「どうして私は言えないんだろう?」
響は自分に問いかける。その答えがわからないまま、彼女はただその感情に溺れ、胸が苦しくなっていった。
日々が過ぎる中で、響はその思いを徐々に封じ込めようとした。しかし、奏多の笑顔が忘れられず、心の奥にその想いがくすぶり続けた。日常の中で、何度も彼に話しかけようとする自分がいたけれど、その度に足がすくんでしまう。
「もしも、私がその一歩を踏み出していたら、何かが変わったのかな?」
そんなことを考えながら、夕暮れの駅前で立ち止まった響は、空を見上げる。星がひとつ、流れていった。響は目を閉じ、心の中で静かにその瞬間を受け入れる。
彼女は今、何も言わずにその思いを心の中にしまうことを選んだ。奏多が誰かに笑いかけているその姿を、彼女は何度も心に焼き付けた。そのすべての笑顔を大切にしながら、彼女は自分の道を歩き始める。
時が経っても、響の心の中で奏多への想いは色あせることはなかった。彼女が言葉にできなかったその気持ちは、永遠に胸の中に残り続け、どこかで奏多が幸せでいてくれれば、それだけでいいと思うようになった。
そして、響は明日もまた、静かな心の中でその思いを大切にしながら、歩んでいくのだった。