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謁見

大臣と話し合って、俺の話は吟遊詩人が英雄譚として語る事となった。

いや、騙る事となった。

王の前で跪き吟遊詩人の歌を聞いている途中何度も何度も吐きそうになった。

それを俺が涙ぐんでいると勘違いした者達はもらい泣きをしている。

酷く醜く、下らない光景だ。

全てが嘘っぱちだ。彼らは死んでゾンビになった、そして塵になる事を選んだ。

その真実を知る者は俺と大臣だけ。

今後もこの吟遊詩人の騙る歌が伝説として残るのだろう。

そして俺はただ一人残された悲劇の生き残り・・・悲劇の英雄・・・

そして俺は嘘をつき続け生き続ける。

死ぬことすら許されない。

英雄として、この国に幽閉されるのだ。


吟遊詩人の偽歌が終わると王が俺に慰めと労りの声をかけた。

俺は顔をあげ王に礼を言う。

隣に座る姫は顔を覆い泣きじゃくっていた。

とても見ていられなかった。

それでも俺にはまだつかなければいけない嘘があった。

彼女に指輪を渡さなければならない。

アイルが、戦いが終わった時にシャロンに渡そうとしていた指輪だ。

ある時男達だけで話す機会があった。

アイルはシャロンを愛していると。

世界などどうでもいい。

彼女のために魔王を倒す。

そして平和になった世界で彼女と静かに暮らす。

それが夢だと。


もし彼が生きていたとして、シャロンが生きていたとして、

その夢が叶ったとは限らない。

何故なら今目の前にいる姫も、アイルを愛していたからだ。

国民の期待、次代の王、その座をアイルに断る自由があったかは謎だ。

それは俺もアイルもゴードンも、うっすらとわかっていた。

でも何も言わなかった。

希望が必要だった。

希望が、夢が、俺達を突き動かす原動力だった。

ゴードンもまた口にはしなかったがセリアに対して同様の気持ちを抱いているのは誰の目からも見て明らかだった。

それを俺がぶち壊した。


そして今また俺は彼らの思いを踏み躙る。


姫へと近づきアイルがシャロンに渡そうとしていた指輪を彼女に捧げる。

これは貴女様への愛の誓いだと。

凱旋の際にこれを渡すつもりだったと。

最後の言葉は姫への愛の言葉だったと。


吐きそうになるのをぐっと堪えて指輪を姫へと手渡す。


悲鳴にも似た鳴き声をあげる姫を侍女が連れ出す。

彼女にも愛という名の呪いがかかってしまった。


その後の話はよく覚えていない。

とにかく一生の面倒を王国が見てくれるらしい。

そして俺には豪華な屋敷が用意されていた。


「これが俺の牢獄か・・・なんとも豪華な牢獄だな。」

俺をここまで案内した兵士がその独り言を聞き怪訝そうな顔をする。

「なんでもない、ここでいいよ。ありがとう。」

そういって兵士を返し屋敷へと入る。


「さてと・・・これから俺は何をして生きていけば良いんだろうな。みんな死んだ。金は十分にある。しかしこの金の使い道がない。何かを楽しむという気分でもないし。ただ老いていくのを待つだけの人生か。それともまだ何かしないと神様とやらは俺を許してはくれないのだろうか。なぁ神様よ。あんたが本当に神様ならもう俺は十分に罪を償ったんじゃないか?まだこれでもあんたのお許しはもらえないのか?」


返答はない。都合のいい神だ。いや、俺にとっては悪魔の方が正しい。

死ぬも生きるも地獄。

これも自分で自分を殺した罰か。


考えても仕方ない。

平和になった世界とやらを見てみよう。

せめて俺達の行いで皆が幸せになった姿を見て気でも紛らわそう。


翌朝俺は王都を出て近隣の村へと向かった。

王都に近い村という事もあってさほど変わった様子は無く村は平和そのものだった。

それでも俺がただ一人の生き残りという事もあって手厚く迎えてくれた。

抱えているものが少し軽くなった気がした。

みんなが笑っている。

あの4人にも見せてあげたかった。


俺達が旅に出た時、この村出身の戦いで亡くなった戦士の墓へ立ち寄った事を思い出した。

俺は彼に戦いの勝利を報告するために墓地へと足を伸ばした。

そこには老婆が一人立っていた。

老婆は俺を見るなり


「どうして死者が生きているんだい?」

と問いかけてきた。

なにを、と聞き返すより早く

「あんた死んでるだろ?なんで生きてるんだい?どうやったらそうなれるんだい?私もそうなれるのかい?」

「あなたが何を言っているのかはわかりませんが、俺は生きてますよ。それより、あなたは・・・そうか、霊体か・・・この世に未練でもあるんですか?」

「ふぅん・・・私には私と同じ、死んでるように見えるんだけどねぇ・・・?まぁいいさ、未練といえば未練はある。あと1日だけ生きたかったのさ。」

「1日だけ?それはどうして?」

「それは・・・あんたにいう筋合いはないね!それより、あんたみたいになれないのかい?1日だけでいいんだよ。」

「1日だけ・・・なれなくはないですよ・・・ただしその後あなたはおそらくその形を保っていられない。塵となって消え去ります。それでも良ければ。」

「ほんとかい?今日だけでいいんだ。今日さえ生き返ることができればそれで。頼めるかい?」

「わかりました。きっかり1日だけ。」


俺は彼女に死者蘇生を試みる。霊体であれば何故か実体化できる確信があった。

俺の読み通り彼女は実体を手に入れた。

「おお、本当にあんたみたいになれたよ!」

「俺から離れすぎても塵になって消えますからね?あまり離れないでくださいね。」

わかったよと言って老婆は足早にかけていく。

俺もそれに着いていく。

おそらくここは彼女の家だろう。彼女と一緒に家に入ると老人がいた。

その老人は初めこそぎょっとした表情をしたが直ぐに真顔になって

「ついに俺にもお迎えがきたってか。あんた、死神か何かかい?うちのばあさんと一緒に来たのか。」

「あ、いや、俺は・・・」

言い淀んでいると老婆は何も言わず洗い物を始める。

それを見て老人も何も言わずただ座っている。

洗い物が終わると次は洗濯・・・テキパキと家事をこなしていく。

その間この老夫婦は一言も言葉を交わさない。

何の為にこの老婆は蘇生したというのだろう。

この爺さんに何か言いたいことでもあったんじゃないのか。

そう思案していると自分がとても場違いなことに気づき家を出て軒下で待つことにした。


相変わらず二人に会話はない。


夜になり家の中から何やらいい匂いがしてきた。

彼女の得意料理だろうか。

たった1日、家事をやる為だけに、その為だけに蘇る。

俺には正直理解のできない行為だったが老婆がそれで満足なら何も言うまい。

俺はいつの間にか軒下で寝ていた。

朝日が差し目を覚ます。

もうすぐ彼女の蘇生を解除する頃だ。

声をかけるかどうか迷っているところに彼女が家から出てきた。

「ありがとよ、行こうか」

そう言って墓地へと向かっていく。

墓地へと向かう道すがら

「あの、本当にこんな事をする為だけに蘇りたかったんですか?」

「こんな事?ま、あんたにも愛する人ができたらわかるさ。さ、もう思い残したことはないよ。ありがとね、死者のあんちゃん。」

「だからおれは」

言い返そうとした時、老人が走って墓地へとやってくる。

「ばあさん、ありがとうな?俺の誕生日を祝う為だけに帰ってきてくれたんだろ?俺の誕生日の前日に死んじまったから。だから。」

「何言ってんだい。そんなのただの偶然さ。あんたがちゃんとやってるか1日だけ見にきただけさ。ただ・・・それだけさ。」

「婆さん・・・愛してるぞ。おれはな、お前の事愛してるからな!生まれ変わっても絶対にお前を見つけるからな!」

「やだねぇ、他人様の前で涙なんて流しちまって・・・あーやだやだ。生まれ変わってもこんな男と結婚するってのかい?しょうがないねぇ・・・あたしゃゆっくりあっちで待ってるから・・・長生きするんだよ?」


彼女の声が若返る。


「愛しているわ。」


彼女の目からは止まることのない涙が流れている。


俺は死者蘇生を解除した。

塵になっていく彼女と見つめ合う老人。

彼女は消え去った。

塵となった彼らは何処へ行くのだろうか。


しかし一つわかったことがある。


涙は塵にならない。


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