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魔王城脱出

塵となって消えた4人を見送った後、涙を流す暇もなく背後から大勢の魔物の足音が聞こえてくる。

魔王を倒したとて全ての魔物が消え去るなどというご都合主義はないのだ。

ここはゲームの世界などではない。

心のどこかでこれはゲームや夢で、俺は本当は死んでいるのではないかと思っていた。

だが現実は無情だ。

眼前に広がるは自らの主を殺され復讐心に満ち満ちたモンスターの群れ。


ここで死ぬのも悪くない。

ここで死ぬなら・・・もしかすれば・・・


そんな考えが頭をよぎった時、またあの声が頭に響いてくる。


(死ぬ事は許しません)


呪いだ。

これは呪いだ。

自ら命を絶った俺への、神からの呪いなのだ。

死ぬことすら許されない。

仲間に殉じる事すら許されない。

いや?そもそも彼らは最後まで俺を仲間だと思ってくれていたのだろうか?

ある時まではそうだったかも知れない。

しかし、あの時から俺はもう仲間ではなかったのかも知れない。

仲間に殉じる?

彼らがそれを許すと思うのか?

勘違いも甚だしい。

彼らは俺を許さないだろう。

同じ場所に行けることなどないだろう。


どうせここで終わる事すらできないのなら・・・


【死者蘇生】


首と胴が永久に別たれたかと思われた魔王が俺の死者蘇生によって蘇る。

今回は完全なる支配付きで。


魔王が蘇った事で色めき立つモンスター達だが、その次の瞬間奴らは困惑や恐怖の表情を浮かべ

一匹また一匹と消し炭にされていく。

お辞め下さいと懇願するモンスター達を蹂躙していく魔王。


血の涙を流しながら次々に同胞を殺していく。


魔王も泣くのか。

こいつにもそんな感情があるのか。

姿形が違うだけで、根本は俺たちと同じじゃないか。

俺は笑いながら泣いた。

俺の笑い声が城中を木霊する中気づいた時には魔王城からモンスターは一匹もいなくなっていた。


城を出る際に荷馬車を見つけた。

そこにアイル達の装備品を全て載せてせめて故郷に持ち帰りたかった。

もうここには用はない。

魔王にかけた死者蘇生を解こうとした時魔王が口を開く。


「この屈辱決して忘れんぞ・・・我が同胞の怒りを、怨嗟を、思い知るがいい・・・我が恨み、未来永劫消えはせぬ。貴様を呪い殺してやる。」


「魔王の癖に随分小物みたいな事を言うんだな。呪い殺せるならやってみろよ。どうせ俺はもう呪われている。お前を倒したのになぜ勇者達がいないと思う?彼らはもうとっくに死んでいたのさ。それを俺が今のお前の様に蘇生して戦わせた。仲間を使い捨ての人形にしたんだよ!お前の呪いなんざ屁でもないんだよ!俺は・・・仲間をっ・・・!」


その先は言葉にならなかった。

魔王も何も発する事はなかった。


「もう良い・・・消えろ・・・」


死者蘇生を解くと魔王はニヤリと笑いながら塵となっていく。

その最中またもアイルと同じ言葉を放つ。


「生きろ。」


こいつもか・・・俺にとって生とはなんだ?死とはなんだ?

どちらも俺にとっては呪いでしかない。

生きることも死ぬこともどちらも呪い。

どうすれば俺はこの輪廻から抜け出せる?

無になれる?

いくら自問自答しても答えの出ない問いを頭の中で巡らせ続け、幾日か。

やっと人間の領地に辿り着く。

魔族に支配された土地から暗雲がなくなり光がさした事で魔王が倒された事を知った村人は歓喜の声をあげて

馬車に近づき”我々”を出迎える。

しかしそこにいるのはただ一人、俺だけ。

それを見て表情を曇らせる村人達だったがすぐに俺を労い休む場所を用意してくれた。

久々に見た鏡に映る自分の顔は酷いものだった。

よくこんな男を歓迎ムードで迎えたものだ。

せめて彼らに心配をかけない様身だしなみを整え、精一杯の作り笑顔を作って彼らのもてなしをありがたく受けた。

彼らも何があったかは詳しくは聞いてこなかった。

聞かずともわかるだろう。

俺以外は死んだのだと。


1日ゆっくりと休ませてもらった後俺はこの村の転送陣を使い王都の城下町へと転送した。


転送をする際、転送元と転送先には光の柱が昇る。

それを見た王都の連中は勇者様御一行が帰ってきたのだと勘違いして総出で迎えに上がる。

彼らもまた暗雲がなくなった事で魔王が倒れた事を察したのだろう。


俺は帰ってきた。

俺たちは帰ってきたんだ。

彼らの遺品と共に。


俺が転送陣のある祠から出ると一斉にファンファーレが鳴る。

俺と、そして彼らの遺品が入った大きな袋を見て一瞬音が乱れるがすぐに持ち直し俺が王城へ向かうまで音が鳴り止まない。

城下に住む人間達も困惑しながらも俺に労いの言葉をかけてくれる。

その声が俺には呪詛にしか聞こえない。

この人殺し、命を弄びやがって、勇者様をかえせ、お前のせいだ、みんなをかえせ、みんなを、みんなを・・・


城に辿り着くと門前でこの国の大臣が出迎えてくれた。

俺の目を見た瞬間に何事かあったのを察した彼は王に謁見する前に大臣室に俺を通した。

この国がここまで魔王から人間の領地を守ってこられたのはこの大臣がいたからだと囁かれるほどの智者で、

転生したばかりの俺に一番親切にしてくれたのもこの大臣だった。


「いったい何があったか、私にだけは教えてくれないだろうか?」


そう真摯な目で俺を見つめる大臣に自分達に起きた事、自分のやった事、そして4人の最後を伝えた。

彼は俺の話を時折目頭を押さえながら聞いていた。

話が終わると彼はこの話はとても王や姫に聞かせる事は出来ないと言い、二人の間だけの秘密にしてくれないと提案した。

俺も姫がアイルを慕っていたらしい話はうっすらと聞き及んでいたし、正直に話して

愛する人は私がゾンビにしました。そしてその後塵となって消えました。

なんて話をしてしまえば彼女の精神はどうなってしまうか。

そんなものは容易に想像できた。

俺は甘んじてただ一人生き残った英雄として生きる事にした。


これもまた俺に課せられた呪いなのだろう。


英雄という名の呪いだ。


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