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12.
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信号はすでに変わり、吉岡先生と奥さんが乗った車は、もう視界から消えていた。
香那実に囁かれ、あの車を見た時、思わず声が出そうになった。
あの車の中には、何もいなかった。
ソレは、車の外にいた。
ボンネットの上、運転席に被さるように、フロントガラスに貼り付いていた。
赤黒い、ナメクジのようなドロリとしたモノ。
ジュクジュクと、全身から赤い液を流して、フロントガラスを汚していた。
ソレは、黒いモヤのようなモノ抱いていた。
黒いモヤは、目玉があって、助手席の方をじっと見ていた。
とても怖いモノだった。
とても哀しい色をしていた。