11.
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高原さんに黒いモヤが重なって見える前から、私の脳は、高原さんと吉岡先生の関係を感じていたのだろう。
そんじょそこらの生娘の私には、男女の機微など、何ひとつ分からないのだが…。
ともかく、私の脳は、2人の仕草や雰囲気などから、2人の関係を知っていた。
そして、高原さんの表情や肉体の変化を見ていた。
あの黒いモヤを、香那実は生き霊と言ったが、それは、似てはいても、全く違うモノ。
独立したもうひとつの存在。
高原さんは殺されて、お腹を裂かれた。
何でそんな事をしなければならなかったのか?
たぶん、そこに、言い逃れが出来ない証拠があると思ったから。
例えば、DNA鑑定をされたら、それが何なのか、すぐに分かってしまうような。
しかし、そこには何も無かった。
つまりそれは、高原さんが妊娠していなかった、2人の間に肉体関係は無かった。
そう犯人は思っただろう。
安堵しただろう。
喜んだだろう。
悩みから解放されただろう。
高原さんのお腹には、赤ちゃんはいなかった。
でも、それは、もういなかっただけ。
私にはそれが、高原さんに重なった黒いモヤとして視えた。
あの黒いモヤは、高原さんが中絶した、吉岡先生との子供。
中絶したから、もうお腹の中にはいなかった。
これが、私の脳の一部が、私に視せたモノから、私が合理的に解釈した、私なりの辻褄合わせ。