8.
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「で、何か見えてんだろ、な?」
「なんの事だか」
香那実はナントカフラペチーノを私の前に置いた。
場所は外資系のコーヒーショップの端っこ。
2人掛けの席で、私と香那実は向かい合っている。
「まあまあ、ダークモカチップフラペチーノ飲みねえ、私の奢りだ」
「それは、ありがとう」
「で、吉岡に憑いてる高原さんの怨霊とか、見えてんだろ?私だけに話してみろよ」
「唐突だな、なんでそんな事になるんだよ」
「いや、だって、高原さんの生き霊が、吉岡を見てたんだろ?お前の霊力の成せる技だろ」
「霊力!新しい用語を添えるなよ」
「まーまー、で?」
「じゃあ、私の目に映った、本当の事を言うよ、吉岡先生には何も視えない」
「マジで?」
「マジで」
「じゃあ、高原は誰に殺されたんだよ?」
「お前、先生を殺人犯に認定してたのかよ、よそでは言うなよこんな事」
香那実は無言で腕を組んだ。
下になった右腕の指先が、こちらに爪を向ける。
「香那実、爪、キレイになったね」
瞬間、香那実が笑顔になった。
「分かった?ちょっと気分変えようと思って、ネイルサロンでハンドケアしてもらったんだ、やっぱ爪を磨くだけでもプロは違うね」
香那実は顔の近くで手を広げる。
笑顔が眩しい。
犬の件から、まだ暫くは、沈んだ色だったけど、最近では明るく、解放されたような色になっている。
香那実は笑顔で話し続けている。
とても、魅力的な、キレイな顔。
それこそ常人離れした、整った顔だ。
俗な言い方をすれば、モデルさんのような美しい顔をしている。
黙っている時も、口元に、あるかなしかの微笑みを浮かべている。
修学旅行で見た仏像のような。
優しい微笑み。
背中まで伸びた長い黒髪が、艶やかで眩しい。
真剣な表情は凛々しく、しかし次の瞬間には大口を開けて屈託なく大笑いする。
誰からも好かれる、誰もが憧れる存在。
香那実と向き合うと、何故、私のような、ちんちくりんの、くせっ毛の、野暮ったい顔の障害者と仲良くしてくれるのか、いつも不思議に思う。
だから私は、香那実の隣に居続けたい。
その笑顔を、すぐ隣で見ていたい。