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「あんた、本当にマジの霊感少女だったんだね」
帰りの路面電車の中で、香那実が真剣な顔で言ってきた。
「違うっつってんだろ、名誉毀損だぞ」
「だって、うちの犬が死んだなんて、分かるはずないもん」
「だーかーら、別に死んだ犬が見えたわけじゃないんだって、ただ、お前の足下に犬が見える、それだけの事なんだって」
「普通、それを犬の霊って考えるだろ」
「いいか、合理的に考えろ」
「おう」
「これは、詳しく話した事は無いけど、私の脳の障害は、今喋ってる私の心と言うか、感情とは少し違うとこで、私が知らないうちに何かを感じて、何かを考えてる、そーゆー感覚」
「うん」
「例えば、この私は気づいて無かったけど、その脳の部分が、お前の制服に白い犬の毛を見ていたのかもしれない、犬の匂いやドッグフードの匂いを感じていたのかもしれない」
「んん」
「犬が視え始めたのは今週の月曜だ、例えば、今まで感じていた犬の毛や匂いを、急に感じなくなったのかもしれない」
「それだけの事で…?」
「あと、これは、この私が見てすぐに分かった事なんだけど、香那実、お前、月曜の朝に目が腫れてたよ」
「え…」
「目のクマも酷かった、顔色も悪かった、いつも綺麗な髪の毛にしっかりブラシが入って無かった、声のトーンも低かった」
「ああ、そうだったんだ…」
「お前が何も言わないから、こっちも突っ込んで行かなかったけどさ、少し心配してたんだよ、で、そんなのがさ、私に白い犬を視せたんじゃないかな…、合理的に考えて」
「そうか…、うん、ありがと」
「こんな私でも、友達の事は見てるよ」