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二十五話




 ──それから少し経って。


 今はNTR全員で俺の家に集まり、昼食を作っている最中だ。

 料理が上手い式上先輩とインが台所を占領しており、料理が下手で役立たずな俺と足手まといな(そもそも料理経験が皆無な)ムチ子は、ソファに座って二人並んで大人しくしている。


「……ねぇ」


 やることもないので適当にテレビを流してボーっとしていると、隣に座っている赤髪の少女が声をかけてきた。

 そちらを向いてみて分かったが、やはりムチ子はあまり魔力が回復していない。

 今も中学生くらいの体型で、ロリっ子な式上先輩とスレンダーな高校生サイズのインのちょうど中間くらいだ。ムチムチの面影もない。


「どしたムチ子」

「料理ってやつさ、アタシも待つ必要ある? アタシはサキュバスだし、精気か精液が摂取できればそれでいいんだけど」


 確かに言われてみればそうだ。えっちな夢を克服しよう大作戦のために付きっ切りで俺に夢を見せていて、そのせいで今朝の朝勃ちを目撃してしまって少しばかり興奮しているムチ子は、プカプカと宙に浮かびながら俺たちを観察しているいつもとは違い、今日はずっと俺の傍にいる。精気のいい匂いがするらしい。

 なのでごく自然に食事の席に同伴したのだが、今になって冷静になったらしく、席を立とうとしている。


「ちょっと待ってくれ」

「……なに?」

「せっかくだから一緒に昼飯食べないか? 今日だけでもいいからさ」


 ここ最近は眠っている俺から()()()精気を吸い取って生きながらえているムチ子は、極端な話いつも腹ペコさんだ。

 だから少しでもお腹が膨れるよう、彼女にも人間の食事をしてほしいと俺は思っていた。


 俺たちに協力する代わりに、定期的に俺の精気を吸う──というのが、ムチ子と結んだ契約の内容で。

 少なくともこの地域に訪れた他のサキュバスたちを追い払うまでは、俺たちに協力してくれるという話になっている。

 つまり俺はゲームクリアの他に、『この街に来るサキュバスたちを追い返して、ムチ子の居場所を作る』という、もう一つこの世界でやるべきことがあるのだ。


「もしかして……俺たち人間の食事だと全然栄養にならない感じなのか?」 

「別にそんなことはないと思う。……ただ、アタシたちサキュバスの食事は、人間の男の精気。生まれた時からずっとそうして生きてきたから、それが普通なの。他の食事の方法なんて考えたことも無かったわ」


 精気を吸うことでしか食事をしてこなかった……という割には使っていないはずの歯も退化してないし、抜きゲーみたいな世界だからなのかどんな生き方をしていても外見は人間に似たままだ。

 それならむしろ好都合。食べ方さえ教えてあげれば、彼女にも人間の食事ができるはずだ。


「いらないのか?」

「いらない」

「でもお腹すいてるだろ」

「アンタが精液を提供してくれたら満腹になれるんだけどね?」

「うぐっ……」


 申し訳ないがそれはできない。俺はエロゲの主人公なんかじゃないし、むやみやたらに女の子と肉体関係を持ちたくはないのだ。

 聞けばサキュバスの精液摂取は肉体的接触が必要不可欠とのことなので、俺が自慰で吐精した精液を与えられない以上、彼女に精液を与えることは出来ない。


 そもそも女の子の体の良さを体験してしまったら、俺は夢の中でサキュバスに負けかねない。

 インには我慢すればご褒美があると言われたものの、もしそのご褒美を受け取ってしまったら、サキュバスでもそのご褒美と同じ気持ちよさを体感できると思い込んでしまう。


 ゆえに俺は今のところ、全ての性欲をオナニーで発散している。

 サキュバスに打ち勝つためには、女体の気持ちよさを知らない今のままの状態であることが必須であり、誇り高き童貞でいることが勝利への鍵なのだ。


 ……式上先輩とはヤッたが、事故なのでアレはノーカンだ。そもそも行為そのものの記憶はともかく、気持ちよさ自体は覚えていないので問題ない。



 話がずれた。閑話休題。


 ともかくムチ子には抜きゲー的処置ができないので、その代わりにご飯を食べてほしい、というわけなのだ。


「騙されたと思ってさ、とりあえず食べてみてくれよ。今日はカレーだぞ」

「かれぇ……?」


 料理の名前すら知らないムチ子が首を傾げるが、まぁまぁと彼女を宥めながらリビングのテーブルへと案内し、半強制的に椅子へ座らせた。

 俺も隣に座ると、お盆に皿を乗っけたロリっ子と無表情娘がテーブルにやって来た。

 どうやらちょうど料理ができあがったらしい。


「二人ともおまたせ~。美味しいのができたよ!」

「コウはこれ。ムチ子のはこっち」


 二人がテーブルにカレーを置いていき、彼女らが座った事でNTRが集合した。 

 よし、ではここはリーダーたる俺が先行して。


「じゃ、みんな手を合わせて」

「……?」


 見様見真似でムチ子も手を合わせている。えらい。


「いただきます」


 俺の合図にあわせて他の二人も同様の言葉を放ち、数秒遅れてムチ子も「い、いただきます」と言って慣れない手つきでスプーンを手に取った。

  

「これが、かれぇ……」


 恐る恐るスプーンでカレーをすくい上げ、まじまじとそれを観察するムチ子。

 

「ど、どんな味がするわけ?」

「まずは口に運んでみな」

「…………あむっ」


 諭すように俺が言うと、ムチ子は目を閉じて勢いよくスプーンを頬張った。

 スプーンを離し、カレーをモグモグと咀嚼して──



「……うまい。……かも」



 驚いたような表情をした後、少しだけ頬を緩めてそう言ってくれた。

 どうやらカレーは彼女の口に合ってくれたらしい。

 それに気がついたインと先輩も、顔を見合わせて少し笑った。


「それはよかった」

「ふふ、頑張って作った甲斐があったってものだね」


 二人の言葉を耳にして、ムチ子は少しだけ照れ臭そうにしつつも、またカレーを食べ始めた。

 俺も、他の二人も、カレーを頬張るそんなサキュバスに癒されつつ、昼食を食べ進める。



 この世界に来てからは何かと騒がしかったけど、こんな平和な日もあるんだなと実感して、俺は少しだけ嬉しくなったのだった。



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