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十三話



「──発動されるのは付与されてから三週間後。つまりアンタらは明日からってワケ。

 呪いが起動すると性欲が通常の五倍になるから、性欲発散するなり運動して誤魔化すなりして頂戴」

「ちょっ、まてまて。いきなりすぎてワケわかんねぇんだが」

「言葉通りの意味よ……。あぁ、あと呪いは起動してから二週間で消えるから」


 唐突にとんでもないことを暴露してきやがった。

 触れるだけで呪いが付与されるなんて、予想以上にサキュバスとは危険な存在だったらしい。

 戦闘する中で俺たちNTRは全員サキュバスに触れてたから、みんな明日から性欲が五倍になってしまうではないか。ヤバイわよ。


「……ていうか、なんで敵のお前がそんなこと、俺に教えるんだよ?」


 俺が怪訝な表情でそう質問すると、サキュバスはプイッと顔を背けてしまった。


「アンタたちが呪いで発情して、それでまたアタシのせいだって八つ当たりされたら溜ったもんじゃないもの。

 いい? とにかくその呪いはアタシの意思じゃないから。

 もうこの地域からは出ていくから、追ってきてまた捕まえるなんてことはしないでよね!」


 そう言って立ち上がるサキュバス。

 部屋の窓を開け、背中から黒い羽根を出現させた。


「お、おい! ちょっと待て!」

「……何よ」


 呪いの件は……まぁ抜きゲーみたいな世界だし、そもそもサキュバスなんて存在が実在しているのだから、そういうものなのだと納得することにした。

 でも、このまま見逃すわけにはいかない。

 せっかくまた会えたのだから、彼女には言っておきたいことがある。


「お前も生きるためなんだろうけど……今回みたいに無辜の人々を襲うのは、なるべく控えてほしい。

 できれば、悪い奴とか性欲が凄いやつとか、そういう人間を対象にしてくれないか?

 もし普通の人を選ぶのだとしても、搾精する量を減らすとかさ」

「……そんなの、保証できないわよ」

「なるべくでいいんだ。搾精し尽して意識混濁の状態にするのは、やりすぎだと思うから」


 サキュバスの生活事情は詳しく知らないが、きっとやりようはあると思う。

 それにこいつは極悪人というわけではないと思う。

 わざわざ俺の所へ警告に来なくても、黙って遠くへ逃げてしまえば済む話だったのに、呪いの事を俺に教えてくれた。

 彼女ならきっとできると、そう信じたい。


「……」


 ジッと俺を見つめるサキュバス。

 そのまま固まっていると、彼女は小さくため息を吐いた。


「……ハァ。アタシを見逃せないなら、さっさと捕まえるか通報するかすればいいのに。

 馬鹿というかお人好しというか……」

「ばっ、馬鹿ってなんだよ。そういうこと言うと本当に通報するぞ」

「ふふっ。あー、こわいこわい。早く逃げなきゃ」


 サキュバスは両翼をはためかせ、部屋の外へ出た。

 そして空中で浮遊をしながら俺の方を向いて、仕方なさそうに笑った。


「まっ、アンタの言った通り人は選ぶし加減もするわ。……なるべく、ね」

「そうしてくれ。またオマエと戦う、なんて機会が訪れないことを祈るよ」

「あっそ」


 フンっ、と鼻を鳴らしたサキュバスは、空を上昇していく。どうやら今夜のうちに、この街から離れるらしい。

 ……あっ、そうだ。


「サキュバスーっ!」

「なによー」

「最後に名前を教えてくれないかー!?」


 窓から身を乗り出してそう叫ぶと、サキュバスは顎に手を添えて考える素振りを見せ──小さく頷き、返事をしてくれた。


「ムチ子」


 その名前マジか?


「名前なんてもともと無いの。でもアンタがムチムチうるさいって言ってたから、とりあえずそう名乗っておくわ」


 皮肉ってわけかよ。自分の名前にも無頓着だなんて、やっぱりサキュバスはよく分からないな。

 まぁいいや。そっちがそれでいいなら、俺もその名前で認識するぜ。


「またなムチ子ーっ!」

「二度と来ないわよ、ばーか」


 俺が手を振ると、ムチ子はどうでもよさそうに小さく手を振って、そのまま飛んで真夜中の闇へと溶けていった。

 サキュバスを逃がしてしまったのは、もしかしたらとんでもなくヤバイことなのかもしれない。

 だけど、ムチ子の言った『なるべく』というセリフは、約束を守る人間の声色だったように思う。人間ではないけど。

 とにかく、彼女はなんだかんだ言って約束は守ってくれると、俺はそう信じている。

 勝手に。都合よく、一方的に。




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