駅のホームにりんごが落ちていたんだ
「駅のホームにりんごが落ちてたんだ」
「・・・・・え?」
「だからね、昨日の帰り、駅のホームにりんごがひとつ落ちてたんだよ」
僕は彼女に対して、りんごが落ちていた時の状況を詳しく説明した。昨日の夜22時頃、家の最寄駅のホームで見つけたこと。りんごはホームの真ん中にぽつんと落ちていたこと。ジョナゴールドだかフジだかの品種はわからないが、とにかくよく見る赤いりんごがひとつだけ落ちていたということ。
「ごめんなさいよくわからないわ。なんだってそんな話をするわけ?」
「君は事の重大さにまったく気がついていないみたいだね。駅のホームにりんごが落ちているのを君は見たことがあるのかい?」
「いいえ、ないわ。だけどりんごが落ちてたって、誰かが落としたもんだと思って気にもとめないわ」
「確かにその可能性もあるね。でもねいいかい、僕の考えるところでは、魔女が毒りんごを置いていったんじゃないかと睨んでいるんだ」
「はぁ~。そうなのね、わかったわ。あなたの話に耳を貸したのが間違いだった」
「よく聞いてくれ。これは君に関係がない話じゃないんだよ。君は今朝、フルーツジュースを飲んだね?」
「ええ、あなたがくれた変な味のね。・・・・って、え?」
「そのジュースには落ちていたりんごを使った」
「は!?ちょ、、なにしてくれてるのよ!? 私を殺したいの!?」
「何をそんなに驚いているんだ。使ったのは落ちていたとはいえただのりんごだ。それともなにかい、毒りんごだっていう僕の主張を信じたのかい?」
「それは信じてないけど、、、、そんな話を聞かされたんじゃなんか嫌じゃない」
「君は僕を愛しているかい?」
「なによ急に」
「いいから答えて。君は僕を愛しているかい?」
「愛してなきゃとっくに離婚してるわよ」
「そうかい、よかった。それなら大丈夫だ」
「なにが大丈夫なのよ」
「君は白雪姫を知っているね?毒りんごを食べた白雪姫が、王子様のキスで目覚めるっていうわけだ。な?大丈夫だろう?」
「つまりあなたはこういうことが言いたいわけね。もし私が食べたのが毒りんごで私が倒れたとしても、王子様のあなたのキスで目覚めるということね?」
「そういうことだ」
「はぁ~、あきれた。あなたと話しているととても疲れるわ。私は少し横になってくる。少し頭痛いのよ」
それから彼女はベッドに横になったまま、二度と起き上がることはなかった。
あれは本当に毒りんごだったのか?
そんなまさか。拾った時にはただの普通のりんごだったよ。