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祝福された黒い血  作者: 梅
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第6話突然の厄災

「初めまして! 俺の名前は三谷澤勇一です。ちょっと諸事情で入学が遅れたけど、その分の時間を取り戻す勢いで仲良くなる予定だから、皆んなのことを沢山教えて欲しい。宜しくね!」



 きらりと光る眩しい歯

 爽やかな笑顔に明るい陽気

 ただの自己紹介でも人をの心を引き込むものがある。

 それは細かな身体の所作

 流れる様に組み込まれたそれは、本人の思惑はどうあれ成功と呼んで良いだろう。

 クラスメイト諸君の表情が物語っている。

 特に女の反応は分かり易い。

 しかし、それよりも目をつくのが、不快な反応を誰も見せない男達

 こんな媚びた雌顔を晒していたら、男としては面白くない部分もあるだろうに、このイケメン君はそれを感じさせない爽やかさがあった。

 不思議と俺も不快ではない。

 何故だろう。

 違和感ではないが、何か引っ掛かるな。

 悪意の匂いはしない。

 負の感情も感じないが、この感覚は矢張り昨日のアレに近いかな。



「はい、三谷澤君。自己紹介ありがとう。それじゃあ、次は藤堂君の番ね」

「……」



 そもそもアレはホントに霊力だったのか。

 認識出来た時点で既存の法則に当てはめたと思ったが、今日のイケメン君を直で観察する程違和感を覚える。

 よもや魔法など戯言と捉えていたが、仮にそれが真実であった場合、あの少女は一体何者で何が目的だったのか。

 燃料とは何に焚べようとした。

 目の前のイケメン君は何か知っているのかな。

 きっぱり水に流したつもりだが、こうもサンプルがあると流石に気になってくる。

 いつもなら解体して情報を引き出して終わり。

 しかし、あの少女の同じ能力を保有していたら面倒だ。

 高校生活の建前もあるし、暫くは様子見でいいかもな。



「あの〜藤堂君? 大丈夫ですか? 体調が優れないなら、保健室で休んで貰っても良いんですよと言うか、三谷澤君のこと凝視し過ぎ──」

「──ああ。失礼しました、まどか先生。少し考えていましたが、今しがた結論が出ましたのでもういいです」



 目と鼻の先まで近付いたのを止め、一歩下がってクラスメイトの方に向き直った。



「藤堂雅臣……見ての通り病弱なので、登校はさしてするつもりはないです。ま、今は面白そうだから、暫くは連登する予定ですがね。ああ、それと、俺はイケメン君と違ってさして仲良くなる気はないので笑」



 イケメン君と同じクラスになれたのは僥倖だが、それ以外の輩には興味の欠片もない。

 元々嬲り殺しに来た訳ではないから、高校生らしく仲良くなってみるのも一興である。

 しかしながら、その辺の有象無象と関わる気は起きん。

 そんなのは中学で飽きた。

 何も面白くなかったしな。

 精々石を投げて生徒を反応で暇潰しでもするか。

 ……何しに入学したんだっけ? イケメン君は副次要素に過ぎないよな。

 リスクを孕むから暇潰しの様子見ってだけで。



「うーん……ん? あいつは……」

「は、はい! 皆んな2人に拍手! ──よし、お疲れ様。それじゃあ、2人の席は1番後ろ、亘理さんの隣2つが空いてるので、それぞれ好きな方に着席して下さい」



 固まったクラスメイトを観察していたら、1人の女が目についた。

 その間にまどか先生は場を流して席へと誘う。

 示された位置は、今気になった女の隣だ。

 確か亘理と呼んでいた。

 肉体情報からしてまどか先生の血縁者か。

 そうなると、年頃から見てイケメン君の知り合いだろうな。

 譲ってやろう。



「イケメン君よ。この女の隣は君が良いだろう? 何やら怯えている様子だし、恐らく2人は顔見知りだしで都合が良いよな」

「あれ? 初対面だと思ったけど、どこかで会ってたかな。ま、その通りだからお言葉に甘えさせて貰うよ。ありがとう藤堂君!」

「いやいや、嫌がる女の隣には座れないさ。ねぇ、確か亘理と呼ばれていたね? まどか先生の妹さんかなぁ?」

「あ……ええ、そうよ。名前はかえで。亘理かえでよ。これから、よろしくね藤堂君」



 一瞬の間はあったが、努めて落ち着いた声音で返事をした。

 薄らと震えているのは見逃そう。

 ゴミカスばかりの豚部屋かと思ったが、目を凝らせば少しは旨そうなのもいるな。

 弱者の中では強めの霊力

 霊能者ってよりは、霊感が強い感じかな。

 見立てでは感受性が高い。

 割と共感し易い性格なのだろう。

 そういう波長の霊力だ。

 イタコや降霊術を用いるタイプに見られる形だな。

 修行を積めば霊能力者にもなれるかもね。

 素質は悪くはない。

 霊力の残滓に触れて気付けるのだから。

 学校では霊道を閉じて周りに影響を与えないよう配慮していたが、そこそこの霊感があれば残滓ぐらい感じ取れる。

 流石に全くなしは無理だし、物理的には不可能だ。

 生命活動と深く結び付くのが霊気

 凡人に限りなく近くしてるが、無意識で漏れたり霊気の質で普通とは違うと勘づかれる。

 共感性の高さも重なって、俺の狂気を霊気から垣間見たってとこか。



「ふふふ、嫌がってるのは否定しないのか。少し残念だが、俺も宜しく頼むよ。ねぇ、かえでちゃん」

「いえ、そんなつもりは──違うの。ちょっとした言葉のあやで」

「ん〜やけに必死に弁明するじゃない。そんなに嫌われていたのかぁ。初対面なのに傷付いちゃうねぇ。ねぇ、かえでちゃん。何がぁ、そんなに恐ろしいんだい?」

「……いや、何でもないから。本当に──」



 興に乗ってもっと弄ろうと思ったら、亘理かえでの前にイケメン君が割って入る。

 そういや忘れていた。

 こっちも構ってあげないとな。



「随分と楽しそうだね藤堂君! でも、俺だけ除け者は寂しいよ。それに、そろそろ席に着かないと怒られちゃうぜ?」

「ああ、楽しいさ。人をからかうのは好きでねぇ。困った顔を見せられると、ついついイジりたくなるんだ。時間? せっかく楽しいのに、それを邪魔するって言うのかい?」

「Sっけあったのか! まぁ、ドM面じゃないからそっち方向だとは思ってたけど、かえでは優しい子だからさ、こういうのは不得意なんだよ。今は休み時間じゃないし、ここは一つ席に着こうよ藤堂君」



 屈託のない眩しい笑顔

 相手を不快にさせない言葉選びに響く声音

 中々に良い指導者向きの器だ。

 割と素晴らしい。

 内容も筋が通っている。

 本音はこのままバイオレンスに突入してもいいが、高校生らしく従うのも悪くはないな。



「ふむ、そうか。確かに一理あるが、まどか先生はどう思います?」

「え? そう、ですね。私としては、大人しく席に座って欲しいです」

「なるほど、分かりました。まどか先生に頼まれたら、従わない訳にはいかないですからね」



 微塵も思ってない台詞を吐いて席に座った。

 約束通り窓側である。

 流行る気持ちはあるが、楽しみはもう少し先に取っておこう。

 それに、こうして面と向かって話していて見えたが、矢張りイケメン君は霊能力者ではない。

 俺の知っている力と符号はしないけど、敢えて言うなら気に近いものを感じる。

 過去に出会った猿神の眷属神

 あいつらは気と霊力を運用していた。

 その感覚に少し近い。

 当然本質は全然違うが、案外ヒントはその辺にあったりしてな。

 気が向いたら会いに行くか。

 いや、眷属神を殺してるから、行ったら猿神と戦争になるな。

 やっぱりやめておくか。



「……いや、偶には暴れようかな……ん、電話か」



 鳴り響くは古き良き黒電話の着信音 

 非常用に準備させた緊急回線だ。

 滅多に鳴らないと言うか、非常時じゃない限り死に近い制裁を与えることを徹底させてるから、ホントの危機的状況が差し迫ってるのか。

 誰にとっての危険かな。

 これに掛ける奴はそんなに多くないけど。



「はーい、皆んなちょっと失礼するね。まどか先生も気にしないで下さい」



 移動しようと思ったが、面倒なので直ぐやめて背もたれに体重を乗せる。

 みしみしと音を立てる椅子

 そういや、俺が使用するモノは特注品に替えないとな。



『もしもし先生ですかっ!? 有馬で御座います。突然のお電話にご対応ありがとうございます。この度は緊急──』

「あー長ぇ前置きは要らんから、ささっと用件を言いなよ」

『はい、失礼しました。その、用件ですが、非常に申し上げ難く……』



 電話相手の対応に訝しみ首を傾げる。

 相手の名は有馬兎蝶

 日本全国に支部を持つ2台宗教団体の1つ【日輪開闢宗教】の教祖だ。

 俺の手駒の中では1番の影響力を誇る男

 その非凡な才能は誰もが認めている。

 当然俺も高く評価しており、随分とこの男の事業に手を貸したものだ。

 大胆不敵かつ鋼鉄の心臓を持つ男が、何をそこまで焦り恐れを抱く必要があるのか。

 些か冷静に欠けている。

 極めて異例なことだ。

 手掛ける内容からして、かなり細心の注意を払って来たから心配事なんて──



『え〜その、ですね。つまり……【五稜天閣】が全て、砕けて燃えてしまいました』

「──何だと? 本気で言ってんのか、有馬!」

『残念ながら……真実でございます。部下の報告により、私も現場に駆けつけてこの目で確認致しました。全て灰となり、結界に歪みが生じつつあります』



 震えた声で報告する有馬は、これから起きる事態を想像して震えていた。

 余りの緊急事態に思わず鳥肌が立つ。

 ロリババアやイケメン君を気に掛けてる場合じゃない。

 つーか、事態に呑まれてチンタラ報告すんな。

 一刻を争う大事だぞ。



「チッ……細かい報告は俺が現地で確認する。有馬──犠牲を出しても構わんから、俺が行くまで時間稼ぎをしておけ。直ぐに飛んで対処にあたる」




 電話を切りつつ勢い良く立ち上がり、封印場所の方角に対して霊道を形成していく。

 確かに僅かながらの歪みを感じる。

 1000キロ以上の距離があって感知できるのは異常だ。

 急いで霊道の形成をせねば。

 失敗すれば辺り一帯が死と腐敗の大地に変わってしまう。



「えっと、藤堂君? 大丈夫ですか? 何やら只事ではない様子ですけど……」

「あ? ああ、これは失礼しました。急用にて帰りますが、気にしないで結構ですので。それと、校長先生には暫く登校しないと伝えて下さい。宜しく頼みます、まどか先生」



 軽く会釈してから走って教室を出た。

 流石に目の前で姿を消すのは不味い。

 校門の外の路地裏から霊道に入るか。

 余りの長距離移動は霊力の消耗と魂の均衡に障害を齎す危険があるが、悠長に構えてたら更に事態は悪化してしまう。



「……今週は厄介事しか起きねぇな、ちくしょうめ」



 走りながら愚痴を溢す。

 暇潰しの規模もここまで大きいと笑えん。

 無事に生きて解決したら、どこか静かなとこで休養だな。

 フラグ染みたことを考えつつ、形成した霊道に飛び込んで姿を消した。


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