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祝福された黒い血  作者: 梅
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第5話歪な匂い

 いやぁ、コテージにちゃんと電話があって良かった。

 2年も使用してないと聞いてたから、脳裏に一抹の不安がよぎったものだが、蓋を開けばちゃんと設備維持はしてた訳ね。

 ははは、ジジイではなく爺さんとこれからは呼ぼう。

 評価はうなぎ上がりだぜ。

 無事に望みは叶えて関係は万全

 気分は冷めていたが、感情ってのは割りかし些細なことで上がるもんだよ。

 うん、全て許す。

 つーか、もうどうでもいいわ。

 どう足掻いても痕跡見つからないだもん。

 それに昨日の話は今日の夢

 所詮暇潰しじゃけぇの。

 過去のことは水に流したるわ。



「ま、そんな感じなので先生……今日は宜しく頼みますよ?」



 ここは俺が通う高校の校長室

 質素で簡素な作りだが、防音対策を施された部屋だ。

 多少の秘密を話したとこで問題はない。

 知られて五月蝿くなるなら消すだけだしな。



「はぁ、何がそんな感じか分からないですけど、藤堂君が困らない様には善処しますよ」

「ちょっと、亘理先生! あの方は生徒であると同時に大切なお客様なんですよ。言葉遣いから普段の対応まで、気を抜かずに接して下さい。前の職員会議で説明したでしょう? 担任の自覚を持って貰わないと困ります」

「……申し訳、ありません。彼が子供なので思わず。以後は改めます」



 ソファーに座りお茶を啜る。

 悪くない緑茶だ。

 ソファーも自衛隊にあったものより上等だし、何より人間模様を観るのは面白い。

 偶には悪くないな。

 本来なら来週のどこかで顔を出そうと思っていたが、案外気分転換の暇潰しにはなりそうだ。



「はっ、雅臣様、お目汚しをしてしまい申し訳御座いません。この者は未だ新米教師でして。ご希望出したら、代わりの担任に変えることも可能ですが、いかがなさいますか?」



 無言の視線が不快信号とでも判断したのだろう。

 校長先生は何やら言い訳がましく鳴いていた。

 教鞭を執る先生の長たるが早口とはこれ如何に。

 何回か造り直せば良くなるかな。



「ん〜校長先生はあいつの直属部下でしたっけ? まぁ、多少の話は聞かされてるでしょうが、それを下の者に情報共有は禁じてるので色々大変でしょうねぇ。ええ、心中察しますよ。ああ、担任はその人で結構ですよ、校長先生」



 飲み終わった湯呑みを机に置き、ゆっくりと立ち上がって校長先生の顔を下から覗き込んだ。

 緊張と恐怖に歪んだ表情

 別にそこまで気を遣って貰う必要はない。

 勿論分別は弁えて貰う。

 ただ、1から10まで指示を出してはつまらないよね。

 それじゃあイエスマンの育成だ。

 俺はあくまで高校生活の為に入学した。

 当然裏口入学だが。

 ある程度の自由性がどの程度俺の生活に影響して来るのか。

 それが見たいのさ。



「ま、一応言うけど、あいつから言われたことは、絶対に死ぬ気で守ることを推奨するよ。破ったら何が起こるか分からないからねぇ〜でもね、俺は高校生活を満喫したいんだよ。分かるかな? 過度な干渉は御法度だけど、俺の反感は買わない様に、上手く立ち回って下さい。そういう意味だから、勘違いとかしない様に、ねぇ校長先生、貴女の手腕を期待してますよ?」

「は、はい! 必ずや先生達には徹底させ、雅臣様に不快なお気持ちを与えない学園生活を提供致しますので、何卒、何卒温かい目で見守って貰えればと……!」



 小さな声で耳打ちをした。

 物凄い速度で首を縦に振る校長先生

 少し冗談が過ぎたか。

 担任の先生も結構引いた表情してるよ。

 あのハゲからどんな風に聞かされてるか知らんけど、ありゃあ相当脅しを掛けられてるね。

 あいつも性格悪いからな。

 ま、失敗すれば自分の命が消し飛ぶからしょうがないか。

 それは引いて校長先生の命にも直結してる。


 何せ俺の正体を知っていいのは、この学校で校長先生ただ一人

 しかも契約関係にもないただの他人だ。

 俺が不満を覚えたら、ハゲに連絡を入れて校長先生を殺し、最後にハゲを殺す。

 登校は自由でいつ帰ってもいい。

 高校生活満喫の解釈は、校長先生に丸ごと投げている。

 ただし、生徒への強制は禁止

 あくまで先生や用務員といった雇用関係にある者限定

 この条件のみで、俺の扱いについて指導しなければならない。

 さぞかし大変だろうな。

 一応3年間無事に乗り切った暁には、叶えられる範囲で願いを聞くと言うご褒美もある。

 正体を晒した以上、野放しにするつもりはないし、ホントは殺す気もないんだ。

 ちょっとした暇潰し。

 当然ながらハゲはこのことを知ってるから、死ぬ気で校長先生の監視をしてる。

 何せ情報の暴露は即死だからね。

 ま、特に問題もないだろう。

 そもそもあんまり登校する気ないからな。



「おっと、そろそろ時間が押して来ましたね。えっと、名前なんでしたっけ先生?」



 くだらない戯言を切り上げ担任の先生に声を掛ける。

 校長先生にはもう用事などない。

 後は校長室を出て、我が教室に赴くだけよ。



「え……あ、あ〜ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね。私は亘理まどか。亘理先生と呼んで下さい」

「はい、まどか先生。俺は気軽にそう呼びますよ」

「えっと、教師と生徒の関係なので、そこは控えて貰えると嬉しい、です」

「へぇ、今しがた校長先生にご指導頂いたばかりなのに、反論出来るなんて良い性格してますねぇ。少しだけ、気に入りましたよ、まどか先生」

「……分かりました。先生がつくなら亘理やまどかでもいいです」



 困惑気味の表情だが、そこに恐怖や嫌悪の色は余り見えない。

 先の反応から考慮して、先生達への説明は難航中といったところか。

 恐らくはどこぞの御曹司とか、その辺の設定で説明したのかな。

 存外悪くない傾向だ。

 俺からもある程度は小石を投げて波紋を作ってあげないとね。

 して貰うばかりでは申し訳ない。



「はい。それじゃあ、先に職員室に向かってから教室に行きます。簡単な自己紹介をして貰うので、心と内容の準備を忘れずに。それでは校長先生、失礼しました」

「……」



 部下の挨拶に対して放心してる校長先生

 教育者がそれじゃあ駄目でしょうに。

 せめて人前では長らしい振る舞いをね。



「おや、大丈夫ですか校長先生? 俺もこれにて退室しますが、お身体は労って下さい。ねぇ、校長先生?」

「ひぃ、おつ、お疲れ様で御座います、雅臣様」



 ん〜もう少し優しくすれば良かったかも。

 恐怖で舌が回ってないな。

 公私の分別さえ忘れてなきゃいいけどさ。

 ま、そんくらいは大丈夫か。

 それより職員室は1階だったな。

 何か忘れ物でもしたのかね。

 1年の教室は3階だ。

 正直言って無駄な移動は好まないし気分じゃない。

 この女の不手際なら、ちょっと圧力掛けようかな。



「……藤堂君にはサプライズになりますが、実は今日から登校する新入生がもう1人います。職員室に向かってるのはその子を迎えて一緒に挨拶をして貰うからなんです。似た境遇の子がいると、少しは安心しませんか?」

「あ? ああ……なるほど。それはそれは、ご配慮痛み入ります」



 弄ろうと思った矢先の先制カウンター

 まさかの理由有りで機会を失ってしまった。 

 理由も正当性あるもの。

 これは弄ろうにも弄れない。

 流石に無理な理由で波紋を作るのは違うからな。

 先生だけに先制技を持ってる訳か。

 うん、くっそつまんねぇな笑


「さて、着きました。呼んでくるので藤堂君はここで……いえ、せっかくなので一緒に入りましょうか」

「あー結構です。待ってるので早く教室に行きましょう」

「そうですか。少し残念です。でも、彼はとても良い子なので、直ぐに打ち解けられる筈ですよ。藤堂君もきっと気に入ります」

「はぁ、気持ちだけで結構ですよ」



 どことなく気分の好調が見られるまどか先生

 この俺のささっと行けや光線が効かないとは。

 生徒を中に迎えに行くだけなのに、その行為のどこに俺が必要になる要素があるのだろう。

 余程そいつと会わせたいのか。

 今の口調からして恐らくは知り合いなのだろう。

 少し話した程度であの説明は流石にしない。

 教師が一生徒に傾倒するのはどうなのかな。

 個人間では好きにすれば良いが、公の場では分別を弁えて然るべきだろうに。

 いや、考えてみれば新米教師

 別にいっか。



「へぇ〜俺以外にも新入生がいたんですか! それは嬉しいなぁ。是非教室に行く前に挨拶をしたいです」

「ふふ、あんなことがあったのに、三谷澤君はいつも元気ですね。藤堂君もきっと喜びますよ」



 話し声と共に近付く足音

 どうやら件の新入生は男か。

 残念だけど、俺は挨拶なんかしたくないよ。

 人間模様を観て楽しみ、偶に石を投げたいだけの野次馬君なのでね。

 全く余計なことをしてくれる。

 いや、教師が下す円満な高校生活の解としては、十分な模範解答と言えるか。



「ふぅ、挨拶ぐらい交わすか……んん?」



 扉の向こう側にある壁に寄りかかるのをやめて、曇りガラスの向こうに薄らと見える人影に注視した。

 その時だ、特大のズレを感じたのは。

 霊力とは違う何かの気配

 生命力とも違う歪な匂い。

 この感覚には、どこか覚えがある。

 これは、昨日感じた気配に近いな。

 そう、小学生の体躯をした少女が放っていたアレ

 魔法だか訳の分からん戯言を吐いていたが、まさかこの学校に来ていたのか? いや、しかしだ、声は確かに男のもの。

 でも、この気配は昨日の少女っぽい。

 今は性に多様性がある時代

 ……性転換してキャラ替えでもしたのか!

 何という堪え性のなさ。

 全世界の紳士が泣くぞ。

 ここは一つ、俺が人肌脱ぐしかあるまいな。


 気配は直ぐそこだ。

 扉に手が掛かりがらりと空いた瞬間、俺は怒りと共に怒鳴った。



「貴様ッアア! 早々に褐色僕っ子ロリロリババア(笑)から俺っ子に鞍替えするとは何事だっ! 恥を知れ、恥を!」

「……え? 褐色ロリロリ? 何、アニメか何かかい?」



 そこにいたのは身長185センチ程度のイケメンだった。

 どうやって60センチ程増やしたのだろう。

 力の流れ自体は感じられない。

 つまりは擬態ではないのか。

 それによくよく見るとだ、微妙に昨日の気配と違うなかな。

 うん、似てるけど確かに違う。

 どうやら人違いでした。



「……悪いな、人違いだ。昨日会った奴に似てたもんだから、つい、ね」

「扉を開ける前に言われた気が……それに、ロリロリって程柔なつもりはなかったけど、まだまだ鍛え方が甘いのかな」

「ん〜いや、かなり良い肉体だぞ。鍛え込まれた筋肉が物語っている。うん、悪くないな、お前の身体」

「え? えっと、ありがとう?」

「……どう致しまして?」

「……」

「……」



 微妙な空気になっちゃった。


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