第2話化物の心霊相談
昨日は少しやり過ぎたな。
事故で顔がスクラップからの、整形で犬顔は流石に無理あるよね。
オマケにテレパシーって、ファンタジーかよ。
ま、その辺を上手く誤魔化せんなら、自害する様に作ったからええけどさ。
突然の心臓発作であの世逝きやで。
そうじゃなくても、無理な改造で寿命は短い。
高校を卒業する前には死んでるだろうな。
何れにせよ、この俺に辿り着くことなど、先ずない。
これぞ完全犯罪
多少疑わしい気もするが、同系統の輩なんぞ警察にはおらんしな。
居ても丸め込めるずぶずふの関係さかい。
矢張り持つべきは使える友人やな笑
この3年で使えそうな場所にはコネクションをしっかり築いた。
警察、県庁、大企業……etc
挙げればキリはない。
当然上下関係における絶対者は俺だ。
裏切り者には即死の呪い。
歯向かう者は徹底的に相手の手を潰し、力の差を見せ付けてから殺したりもしたな。
連続不審死で世間を騒がせたり、この3年の行方不明者の急増も大半は俺だったりする。
ま、中途半端は良くないからね。
やるなら徹底的に。
お陰で白昼堂々と殺人を犯しても揉み消せるぐらいの権力はある。
そんなアホなことはしないけどな。
そもそも殆ど利用もしてない。
ここ最近の利用は高校での自由化と、廃工場の使用ぐらいだ。
元々都会にいる間、快適に過ごしたいからやった。
ついでに叔父貴が死んだ後のバッアップ態勢の確立目的もあるが、精々この2つぐらいだな。
後は暇潰しに利用が関の山
それでも比較的穏便かつ簡易に済ませるようにしてる。
上下関係は絶対だが、それと同時に契約関係でもあるからな。
霊能力……呪いにおける制約
それは利害の一致こそが、制約の効力を高めるのだ。
幾ら絶対的な上下関係を作ろうと、完璧に精神を掌握するのは容易なことではない。
手元に置いてる生物や、その土地に根付き恩恵を受ける眷属ならまだしも、完全に繋がりのないモノを制御するのは難しいのだ。
更にその数が多いってなると、どれ程の霊力を使えば良いのか震えてしまう。
初代なら多重遠隔操作も可能だが、今の俺には到底不可能なこと。
何せ才能が初代より上ってだけで、今の実力はその足元に届いてるか微妙なラインだからな。
いや、サバ読んだわ。
まだ足元にも届いてねぇんだよな、これが。
何だかんだ初代の能力は最高レベルで完結していた。
土地に溶けて意識が分散しても尚、あの執念でしがみ付く意志には脱帽したものだよ。
1000年経ってもまだ残り滓あるしな。
大したもんだよ。
見習わらないとね。
おっと、ぼーっと思考に耽るのはこの辺までにしとくか。
そろそろ説明も終わりだしな。
「ま、こんなとこかな。説明は受けてるだろうから簡易化してるけど、これはビジネスみたいなもんだよ。絶対者は俺だけど、それで縛れる程単純じゃない。利害の一致こそが、長期に渡って良い関係を築けるコツなのさ」
見た目に反して座り心地の悪いソファー
沈み過ぎで背骨が丸くなるが、そこは我慢をして話を続ける。
元は警視長からの紹介で得た縁
ある駐屯地における司令殿との密会
正直自衛隊の指揮系統を考えたら不要な気もするが、警視長の顔を建ててやるかと思ってね。
確か一つ上の席だと自由度も上がるだろうし、あんま詳しくは聞いてないけど、どうせ誰かを殺して欲しいだけだろうしな。
お偉いさんの利益なんざ、上に登る程甘くなるもんだよ。
「……はい、そこに異を唱えるつもりはありません。ここまで御足労を願った時点で、契約の覚悟は出来ております」
「ほぉ、良い心掛けだな。ま、異を唱えた瞬間、この世のあらゆる地獄を見せた上で殺してたけどね笑」
「まさか、貴方様の力と恐ろしさは聞き及んでおります故、その様な粗相は起こしません。それに、私にも、どうにか処理したい案件がありましたので」
「案件ねぇ……殺しかと思ってたが、よく観ればお前からは変な匂いがするな。弱々しい残り滓──その本質は、過去に女を殺したなぁ?」
目を細めて初老の男をよく見た。
正確には肩にこびり付いていた爪跡
その気配は弱々しくも霊的な存在が為せる技
マニキュアっぽい感じだから、多分女性の怨念が男にしがみ付いてるといったところか。
生者が発する生霊の念とは違い、暗く暗く濁った質の念
間違いなく死者の発するもの。
いや、その割には気配が脆弱過ぎるか。
それに何か不自然だ。
確かに怨念ではあるが、その中身が空っぽに近い。
具体的に何を恨んでるのかが伝わらないのは解せん。
怨念とは死にまつわる強い負の感情で成立する。
それが時に膨張して見境なしの地縛霊やモノに取り憑く憑依霊に別れたりするが、こいつの場合はどちらでもないかな。
憑依はしているが、影響を齎す程ではない。
そうなると本体は別にいる。
霊視で痕跡を辿ってみてもいいけど、いかんせんこれとは波長が合わんな。
めんどくせぇ。
「……流石で御座います。仰る通り、私は過去に女性を殺害していました。理由は痴女のもつれです。思わずカッとなって殺してしまいました。死体は別荘地の庭に肥料として解体して埋葬しました」
何の肥料なのか気になると多少思いながら、大雑把に事情は把握した。
矢張り本体は別にいるタイプか。
おまけに憑依先とずぶずぶの関係持ち。
しかしそれはそれでおかしい。
ここまでの暗い縁があってこんな矮小な怨念
殺した女はただ1人
殺ったのは今から2年前で、霊障が始まったのは半年前
死体は別荘地
家にいる時に人の気配や音が聞こえる程度の霊障で、職場での影響は何もないらしい。
寧ろの爪痕の話をしたら顔を顰めたな。
殺して以来別荘地には行ってないとのこと。
「ん〜解せねぇのは、まぁいいとしてだ。要は霊障が始まって殺したことが暴露したらどうしよう。証拠は霊的なモノを含めて消滅させないとってことか?」
「はい、その通りで御座います。物理的には何れ白骨化した遺体の処理をする予定ですし、私有地なので人の立ち入り、動物の掘り起こしも心配いりませんが、霊的にはどうしようも御座いません。最初は心の弱さが作り出しだ妄想かと思いましたが、先生の噂を聞いてもしや真実かと思い至った次第です」
「まぁ、確かに霊能力は俺の専売特許でもないからねぇ。ここに来るまで素質のある奴はチラホラいたし、現に霊能力者は存在する。そう考えたら、お前の不安は間違ってはないぜ」
にやりと、獰猛な笑みを見せて破顔した。
実に簡単な願いで気持ちが上がったのである。
殺人より余程容易い。
多少の謎はあれど、この程度の残り滓がしかない幽霊なんぞ楽に消せる。
地図により別荘地も割れた。
後は霊視によって原因を探り排除するだけ。
つーか、霊力にモノを言わせて消滅させる。
死体に口なしならば、余計な魂の騒ぎも沈めないとな。
声の届かぬ、奈落の底まで。
「よし、話は分かった。直ぐに取り掛かるが、その前に制約を結ばんとなぁ。そして、全て聞いてるのは知ってるが、ひとつだけ言わせて貰うよ。俺は裏切り者には凄惨な報復を与えて嬲り殺すから、夢夢忘れることだけはないようになぁ?」
霊力を解放して初老の男を丸ごと包み込む。
極度の緊張と恐怖で脂汗と震えが止まらない様子だが、そんなことはお構いなしに空間を歪めて認識する世界を暗闇へと変貌させた。
現実世界に干渉して認識を書き換えるなんてのは初歩
相手の霊道から脳へと侵入して主導権を完全に制御する。
男に許されるのは呼吸と絶対なる肯定のみ。
その見返りに相手の望みを叶えるのだ。
通常では叶わぬ欲望に応える為に。
それこそが利害の一致から来る制約
赤の他人との縁を強固にし、遠隔操作を容易にする一種のテクニックである。
因みにテキトーに暇潰ししただけのイヌッコロも、実際は利害の一致による制約を結んでいるのだ。
ま、イヌッコロの場合は本人の意思ってより、無意識を利用した半ば強制的な関係だけど。
あんなのに余計な霊力なんぞ使いたくないからねぇ。
「は、はい……全て承知の上で御座います。私の全身全霊を先生に捧げます故、何卒宜しくお願い致します」
「はっ、宜しい。ならば、即死の呪いをその魂に刻み、俺が飽きるまでは絶対の忠誠を誓うんだな。ま、言うてもお前の使い道はさしてなさそうだけど」
悪態を吐きつつ即死の呪いを掛け、早速霊視にて現地へと赴いた。
県を跨いで跨いだ先にある遠方地
あまり遠いと流石に霊視も困難だが、数百キロ程度なら雑念に耽りながら霊体に行動させるなんぞ朝飯前
本来霊視とは自身の魂を霊力で包み込み、外界にある霊道や自ら作り出しだ架け橋を通って現地に赴くものだが、俺ぐらいになると切り分けた霊力に擬似人格を付与して勝手に行動させることも出来る。
視界と意識の共有も可能だが、そこまでは興味ないから事後の結果だけを受け取って仕事は終わり。
否、最早終わってるに等しいから、後でコイツに事後報告だけして帰──
「──っ!? ……俺の霊体が突然消えた? んな馬鹿な、霊体と言えど並以上の悪霊でも消滅させる程度の霊力はあったのに」
突然の消失に脳が揺れていた。
視界が微かに歪む。
思わず目頭を抑えてソファーに座り直し、男を睨み付ける様に観察するが、別に先と変わらない爪痕
霊力しかリンクさせてなかった弊害で分からないことだらけだが、少なくとも目の前の残滓が何かをした訳ではない。
呪いを刻んだ今や、男が嘘を吐くなど不可能
裏切り行為は魂にまで反応する。
思うだけで即死だ。
それ程呪いによる契約関係は重い。
そうなるとだ、原因は矢張り件の別荘地か。
知ってる場所に霊体を飛ばすなんてほんの数分程度で辿り着く。
つまり、着いた矢先に消えた。
あそこには、何かある。
「……ふん、暇潰しには良いかもな。うん、本体の俺が現地に行こうじゃないか。あ、勿論必要経費はお前持ちだからな?」
ソファーから立ち上がって男を指差し宣言する。
恐らく神霊級だろう。
俺も積極的に関わろうとは思わない存在
だって、あいつらめんどくせぇからな。
メンヘラにヤンデレを混ぜて煮込んだような、そんな性根の悪りぃ化物しかいやしねぇ。
件の怨霊がどんなもんかは見ないと分からんが、大抵霊力に比例して性格も悪くなるもの。
いやぁ、これはめんどくせぇ暇潰しになりそうだ。
……今週は高校生活はなしだな。