プロローグ
生きることに大した理由なんてない。
別にこの世界でのしあがって、偉くなりたいとか、誰かの助けになりたいなんて夢は勿論なし。
所詮人生なんて死ぬまで暇潰しさ。
ああ、自殺願望はないよ。
死にたい訳ではないからね。
ただ、どうしよもなくつまらないんだ。
だから何でもしてきた。
暇だったからね。
殴って蹴って叩き潰し、喚き散らす有象無象なんぞは食い散らかしてきた。
泣いて震えていようがお構いなし。
幸い暴力の才能には恵まれていて、それを行使するのは嫌いではない。
寧ろ弱者を蹂躙するのは割と楽しい気がした。
強者を捻り潰すのは胸が空くけど、楽なのは弱い者イジメだからね。
ま、暇だもん。
生きることに意味なんてなくて。
特別やりたいこともない。
じゃあ、普通にやりたいことがある。
なんて問われたところで、なんか出て来るもんでもないのよ。
周りの人間は何かと己の人生に意義を見出し、それに命を賭けて抗っている。
まぁ、そんな意識高い系はそこまでいないけど、それでも暇潰しを作れるだけ良いとも思う。
少なくとも俺に真似は出来ない。
敢えて挙げるなら、血で血を洗うような、暴力と退廃の蹂躙ぐらいさ。
そう、それがやりたいこと、だったかも知れない。
でもね、これでも努力はしたのよ。
ホントは所謂普通ってやつに憧れてさ、皆んなと違うのが嫌だったわけ。
だから色々真似て取り入れてはみた。
やるたけはやったさ。
結果は残念惨敗
所詮誰かになんてなれはしない。
俺は俺で、君は君
情景は抱けど、それは俺の夢ではない。
やる前から分かってる。
だって興味湧かんもの。
何が楽しいのか理解出来んし、理解する気もない。
そう、ただ羨ましいだけ。
それだけなんだよね。
「……ま、いつもの暇潰しだけど、いい加減堂々巡りの思考回路には飽きるわなぁ」
瞼を開いて天井を仰ぎ見る。
暗闇の中でもはっきりと経年劣化した木目が見て取れた。
見飽きた光景
明日から神々しい高校生活が始まるというのに、心がこんなにも平坦で澱んでいるのは何故でしょう。
答えは上の思考の中に書いてました。
興味ねぇもんな。
当然の心境でしたわ。
「外に来て3年ぐらいか。叔父貴が死ぬまでの暇潰しと思ったが、そもそも死ぬまで後5年あるんだよな。成人してから外に出た方が有意義だったかもなぁ」
中学に進学する時期を境に、暴力網図を駆使して都会に移住した。
当然興味があった訳ではない。
元々地元が田舎なので、叔父貴が役目を終えるまでの間は都会で暇潰しでもしようと思った程度
まぁ、叔父貴が外に憧れを持っていたから、その代わりの側面もあるけど、一番は地元で腐った空気に浸かりたくたいんだ。
それに、普通になる努力にもなるかなと思った。
無駄だったけどね。
「ま、外にコネクションを作れたのは良かったか。中だと本家のゴミが幅を利かせて目障りだからな」
自然とぐもった笑いが溢れる。
確かに俺は人生に興味なんて持ってない。
生きる理由も何となくだしな。
渇望するものがない。
でもね、嫌いなものはある。
どうしても許し難い存在がいて、どうしようかと常々考えていた。
目障りなんだ。
同じ呪われた血を引き、彼の地を収める我らが一族のうじ虫ども。
本家の人間共は皆殺しにせねばならん。
この俺の才能に嫉妬するぐらいならまだしも、殺しにくるなんぞ己の無能を棚に上げる行為よ。
それに気付かない愚者は、ちゃんと殺して御供えしてあげないとね。
「そう考えたら、普通らしいことをするのも今が最後だよな。もう少し暇潰しと研鑽を積むか」
生きる意味なんてない。
生きる理由もない。
所詮死ぬまで暇潰しが俺の人生
刹那的な快楽と虚無の狭間で普通を欲してみる無意味な行為
それが、俺──藤堂雅臣という人間の生き方だ。