百合と紫陽花
イズ王がおもむろに黒文字を取り、紫陽花の端を切り分けた。
そしてそれを口へ運び、顎を一度動かす。
「……ッ!?」
すると次の瞬間には、その表情に驚きの色が現れていた。
「なるほど、上に掛かっているゼリー状のものだけでなく、外と中でもまた味と食感を変えているのか……。外側の紫陽花の花弁部分は見た目のためだけでなく、食感にも一役買っていたのだな。この部分は独特な……何かほのかにフルーツのような甘味がある」
「よくお気付きになられましたね……その通りです。実は紫陽花の色はブルーベリー果汁のアントシアニンによるものなので、フルーツの味がするのです」
「やはりか。ただ甘いだけでなく、フルーツ特有の酸味が紫陽花の爽やかさを上手く表しておる」
「ありがとうございます」
「だがブルーベリーを使ったのなら、もっと紫色になるのではないか? しかしこれはまさに、青紫陽花のそれだ」
「……そこまでお気付きでしたか。はい、それはただブルーベリーの果汁を使っただけではありません。ブルーベリー果汁だけでは中性のため、仰る通り紫色になってしまいます。そこで青紫陽花の色に近付けるため、その分量を試行錯誤しながら程よいアルカリ性になるよう、重曹を僅かばかり加えました。本物の紫陽花が酸性の土壌では青く、アルカリ性の土壌では赤く染まるのとは逆の原理ですね。これは本物の紫陽花が酸性の土壌により溶け出す、アルミニウムに反応して色を変えているからであります」
「その辺りのことはよくわからぬが、わからないなりにもわかったことがある。……どうやら私が思っていた以上に、この小さな茶菓子一つに細やかな研究や計算がなされていたようだな。感心だ」
「そう労っていただけると、連日の努力も報われます」
「それに中のこの白く甘いものの滑らかな舌触りながらも、なんとふっくらほっこりとした優しい食感か……。一体何を使えばこの食感が出せるのだ?」
――来たか!?
僕は満を持してその質問に答える。
「それはユリの根を潰して蒸したものです」
イズ王の表情が固く強張った。
「ユリの根……だと?」
「はい」
フッと、一瞬強張ったイズ王の表情がすぐに和らぐ。
「……そうか、紫陽花の中にユリか」
「それだけではありません。紫陽花の花弁部分も、同じくユリの根を使用しております」
「なるほどな……。一流の料理人がその料理にメッセージを込めるよう、この茶菓子にもそれが込められていたのか」
「差し出がましいことかとは思いましたが、あえてメッセージを込めさせていただきました。きっと二つの国は協力してやっていけます。そのお菓子のように……」
口髭の奥で、固く横一文字結ばれたイズ王の唇。
それが小さく開かれ、本当に聞こえるか聞こえないかという小さな声でこう呟いた。
「……赤紫陽花もあれば、なお良かったがな」
それを僕は聞き逃さない。
「えっなんだって?」なんて訊き返しもしない。
そこまでの間抜けではないのだ。
ただ粛々と答える。
「ございますよ」
「何っ? どこにだ?」




