ハイドランジア
「前回の会談で出たもの以上だ……」
「これが噂に名高い、イド帝国の……!」
「なんと、なんと……」
「ただただ美しい……。これが菓子だと言うのか……」
中には早くも感極まり、食べる前から鼻の辺りを押さえている者まで居る。
それもそのはず、僕が出した和菓子はサラーガの国花であり、今では目にすることが難しくなった紫陽花を象ったものなのだから。
太平洋に面した、ナイフォン大陸の南東にあるサラーガ国。
暖かい海風が吹き、本来は雨量も多いはず。
そのため国花がハイドランジアとなったことまで、容易に想像がつく。
……きっとみんな雨を待っている。
そしてエレミーが言ったように、消えてしまった紫陽花の季節が恋しいはずだ。
更にはサラーガ人が特に、青紫陽花の方に親しみを覚えているだろうという予想も出来た。
なぜなら本来雨量の多い土地ゆえ、酸性の雨の染み込んだ土壌が紫陽花を青く染めているからだ。
ならばここはあえて季節感を無視してでも、相手が望んだもの……つまり紫陽花を出すべきである。
和菓子が季節にあったものを出すというのも、元を辿れば人をもてなし、楽しませるために始まったこと。
サラーガ国の人が一番喜んでくれるであろう梅雨の時期の和菓子を提供することは、楽しませるためというコンセプトに何ら背いていない。
その根底は同じもの。
僕はそう考えたのだ。
難しい表情のままではあるが、驚いたような声色でイズ王が呟く。
「我がサラーガの国花か……。この絶妙な青紫具合、よく出来ておる……。それもこれは、雨の雫に濡れた一番美しい瞬間の姿だ」
そう、僕が作ったのは雨露に濡れた青紫陽花。
先日作った百合根のきんとんを青く染めたその上から、同じ色に染めてきんとん状にした葛を乗せることで、雨に濡れた姿を表現していた。
このイズ王の反応から、気に入って貰えたことが窺える。
……まず第一段階はクリアってところか。
「……だが、問題は味よ」
やはりイズ王は見た目だけで満足するような、簡単な相手ではなかった。
「こういうものは得てして味までは伴わぬものだということを、私は長年の経験からよぉく知っておる。そして見た目と味の差が大きければ大きい程に反比例し、その落胆は深くなるのだ。……これを作った者は今この場におるか? 確か名を……ナギと言ったかな?」
突然名を呼ばれ、僕は動揺しながらも返事をする。
「あっ、わ、私ですっ!」
「……そうか。やはりまだ若い。安易に我が国花をこの場に用いたこと……よく覚悟しろ」
会談の成功は、本当に僕の和菓子によって大きく左右されるのだと、改めて思い知らされた。
……重いな。
でも自信はある。
それでもやはり、少なからず不安もあった。
それでも僕は自分の仕事と、僕を信じてくれた仲間達に誇りを持って答える。
「……はい。どうぞ、お召し上がり下さい」
「……いい目をする。では、いただこう」




