偶然が生み出したもの
それから会談の前々日まで、店の営業終了後に僕は様々なパターンの変化を百合根のきんとんに試した。
色を一つ付けるにも、様々な物を使い、しっくりとくるものを探すことに妥協しない。
赤を使うにもトマト由来の成分を使うか、あるいはパプリカを使うか、クチナシを使うか、食紅を使うか。
あるいは色を混ぜて、調色するか。
後悔をしたくなかったからこそ、思い付く限りを実行し、大いに悩み抜く。
苦しい時間だった。
だが同時に、食べて貰う人の笑顔を見るために行う努力は、とても楽しくもある。
奇しくも僕の人生は、こちらの世界に来てからより輝きを増し、最高に充実していた。
そしてようやく、今回の和菓子に使用する着色料が決まろうという時のこと。
一人でフロアの掃除をしてくれていたエレミーが、これまでに見たことがないような白い粉を床に撒き始めたのだ。
それに気付いた僕は、すかさずこう注意する。
「ダメ! ゼッタイ!」
「は?」
「飛ぶクスリの使用は禁止です!」
「は?」
「……あれ? それって危ない粉じゃないの?」
「全然。吸っても炙っても平気」
「なら……その粉は何?」
「重曹。知らないの?」
「は!? 重曹!? そんなものがあったの!?」
「えっ……うん、あったけど?」
僕は驚いた。
まさかそんなものが、このファンタジー風な世界観の中で普通に存在していたなんて。
慌てて質問する。
「これ、一体いつ誰が作ったんだ!?」
もしや自分と同じく、どこかから召喚された者が作ったのかと考えたが、それは違った。
うろ覚えなのか、エレミーが思い出しながら答える。
「えっとー、何年か前に、確かガラス職人の一人が偶然、仕事中にミスをしたことで重曹を開発した。それから重曹が掃除に役立つことがわかって、売り出された。今じゃそのガラス屋さんは重曹屋さんに鞍替えして、凄いお金持ちになった……らしい」
「そうか、そうだったんだ……」
エレミーの話を聞いた僕は、妙に納得していた。
なぜなら……。
元居た世界では十九世紀にニューヨーク北部で、とある医師がソーダ灰を薪の上で加熱することで偶然重曹を発見したけど、なるほど……こっちではガラス職人が見付けたのか!
ガラス職人なら仕事の過程でソーダ灰を扱うし、火だって近くにある。
何かしらの事故から偶然重曹が生まれたとしても、何ら不思議はない!
僕はなんだかおかしくなり、「ふふっ」と失笑してしまう。
その経緯や職業は違えど、この新たな文明として再興した世界でも同じような手違いから重曹が生まれたことに。
なんだか面白い共通点だ。
それにこの重曹……使える!
やっと今回の和菓子に合った着色料を選び終わったところだけど……。
「さ、色選びを一からまたやり直さなきゃな!」
「ナギ」
「ん?」
「楽しそう」
「……うん、楽しいよ! それといつもヒントをありがとう、エレミー」
「……? 掃除してただけだけど?」
「それがよかったんだよ!」
「いつもしてるけど?」
「今日は特別さ!」




