ザイオン
「そんな……そんな気候を操るような真似まで魔法には出来るのか!?」
「大勢の高位魔法使いと、大量の魔石と、緻密な魔方陣を描く技術と、魔法の研究が進んだ国にはそれが出来るみたいっすねー。そして雨が多く降る梅雨や、台風が近づいた時を狙って発動させてるんすよ」
「……あのさ、おかしなことを言っているならそう言って欲しいんだけど」
「なんすか?」
「魔法で水は作れないの?」
「作れるっすよー」
「だったら魔法で水を作れば、水不足なんてなんとかなるんじゃ……?」
「あー、それはダメなんすよー」
「なぜ?」
「魔法由来の水は、確かに水と同じ性質はあるっすけど、その魔法に使用した魔力が切れた途端に消えるんすよ。魔法で作った水を飲んだところで、一瞬喉は潤うっすけど、結局は体に吸収されないから意味無いっす。ちなみに魔法で作った水を飲む行為には、『愚者の水』なんて呼び名もあるっすよー」
「そうだったんだ……。でもそうなると、またおかしなことが出てきちゃうんだけど」
「何がっすか?」
「その理屈だったら、魔法で点けた火もすぐに消えなきゃおかしいよね? でもエレミーに竈の火を点けて貰ってもすぐには消えないよ? これはどういうことなの?」
「ああ、火の魔法も発動に使用した分の魔力が切れれば消えるっすよ」
「でも――」
「――でも例え魔法の火でも、その部分の火は本物と同じだけ温度が上昇するっす。そしてそこに木みたいな燃えるようなものがあれば、本物の火が点くって訳っすよ」
「な、なるほど……」
「とにかく、これでサラーガは貯水率が常にほぼゼロ。農作物が育たないせいで飢え死にする者も続出。兵達も力が出せず、国力も低下。今一番、存亡がヤバイ国っすね」
「それを……ワートナーがやってるの?」
「いや、ワートナーにそんな力は無いっす」
「じゃあどこが?」
「ザイオンっす」
「ザイオン……」
……そういえばザイオンが、このナイフォン一の強国だとエリュシカも言ってたっけ。
きっと人員も物量も、他の国とは桁違いにあるんだろう。
でも……。
僕は疑問に思って訊ねる。
「でもどうしてザイオンが、わざわざワートナーと協力してまでサラーガにそんな攻撃を?」
「それはもちろん、ザイオンとワートナーが協力関係にあるからっすよ」
いや、それはおかしい。
「なぜザイオンはサラーガでは無くて、わざわざワートナーと手を組んだの? 地理的にも一番遠い国同士じゃないか。それなら海を挟んだ隣国の、サラーガと手を組む方が自然でしょ? 連携や連絡だって、そっちの方がやりやすいだろうし。現に海上の行き来だって困難なはずだ」
「まあ普通に考えたらそうなんすけどねー」
「じゃあなんで? 何か理由が?」
「いーや、大した理由じゃないっす」
「えっ」
「考えてもみるっす。この戦国の世、いつパートナーが裏切るかわかったもんじゃないっす。もし隣国に裏切られたりしたら、その瞬間一気にピンチになるかもっすよ? だったら、裏切られてもさ程影響が無い方をパートナーに選ぶってのは、自然なことじゃないっすかー? 確かに連携面で面倒な部分はあるっすけど、大きな目で戦局を見た時、サラーガと組むのもワートナーと組むのも大してメリットは変わらないっすからね。ただしデメリットはサラーガの方が大きいときたら、もう答えは一つっすよ!」
「そうか、ザイオンにとってはワートナーが一番リスクが少ない相手ってことだったのか……」
「わかって貰えたようっすね!」
そう言われてしまえば、単純な理由だった。
強国な上に、力に物を言わせるだけじゃなく、慎重で狡猾。
ザイオンという国の恐ろしさがよくわかる。




