スイートナイツ案件再び
翌日、皇城のエリュシカの部屋にて。
「朗報だ」
そう上機嫌に始まったエリュシカの言葉に、僕は完全に油断していた。
「実は昨日サラーガから使節団が、秘密裏にこの城へとやってきたのだ」
「へえ」
「それも彼らは思わぬ土産を持っていたよ」
もしかして、その土産を僕達にも分けてくれるということだろうか?
見ればエレミーもじゅるりと、ヨダレを垂らしている。
それを僕はハンカチで拭いつつ、話の続きに耳を傾けた。
「使節団が持ってきた土産とは他ならぬ、我が国でのサラーガ王イズ・オッティ・ワニーシャボー十世との会談の機会だ!」
……ん?
なんだか雲行きが怪しくなって……。
エリュシカは続ける。
「停戦交渉……あるいは軍事協定にまで話は進むやも知れん! これも前の会談で、ナギが成果を挙げたからこそ得られたまたとないチャンス! 改めてその働きに感謝するぞ!」
「あ、ありがとうございます」
「そしてその実績に敬意を評し、新たな大役を命ずる」
「まさか……」
「うむ、ここまでの話の流れで大体の察しはついているだろうが、あえてみなまで言わせて貰おう。急遽一週間後に決まったサラーガ王との会談の場で提供する茶菓子。これをそなたに任せよう!」
「……」
やっぱり、そういう話だったのね……。
「前回とは比べ物にならないくらいの大仕事だ、菓子職人として光栄であろう? よもや不服はあるまい」
「……」
僕がせめてもの抵抗として黙っていると、エリュシカは自分に都合よくそれを肯定と捉えた。
「そうか! 言葉も出ない程私からの期待が嬉しいか!? ならばそれに応えて見せよ!」
期待が重過ぎるんだよなぁ……。
頼むから蒸発してくれよ……。
わざとなのか、空気を読まずにエリュシカはなおもプレッシャーを掛けてくる。
「それに期待しているのは何も私だけではない。住所不定無職を含めた百三十七万二千九百五十九人の、我がイド帝国総ての民もだ。やり甲斐があるというものだろう?」
いやものっそいプレッシャーなんですが。
前回の比じゃないんですが。
尋常じゃなく重いんですが。
つまりそれだけの人間の命が、僕の作る和菓子に掛かってると仰りたいのですね?
あー吐きそ。
にこやかな表情ではあるが、事態の重大さを一番理解し、最後には全ての責任を負わなくてはならない立場のエリュシカ。
そんな彼女だからこそ、それだけのことを言う資格はあるのだ。




