夜を統べる
「どうした? 来ないか? 来ないならこっちから行くが?」
「くっ!?」
エレミーからの挑発にも、刺客達は不用意には動かない。
いや、エレミーの持つ強大な力を察知したからこそ、本能から怯み、動けずにいるようだ。
凄いな……。
こうやって隣にいると、魔力の無いはずの僕にさえビンビンとその強さが伝わってくる。
僕にはこの状況が未だ信じられなかったが、なんとかそれを受け入れてエレミーに話し掛けた。
「……まさか本当に、エレミーが僕のボディーガードとして役に立つ日がくるなんてね。とんだどんでん返しだよ」
エレミーの淫靡な口元が微笑み、その見る者の魂を吸い込むような蠱惑的な目がこちらへと向く。
「どんでん返しじゃない。それも最初に言ったこと」
「ま、まあそうだけどさ」
「これでナギもわかったな? 私こそがあの伝説の亜人種、サキュバスの末裔なのだー」
「んっ?」
「んっ?」
伝わっていないとでも思ったのか、エレミーは何事も無かったかのようにもう一度言い直した。
「純血のサキュバスなのだー」
「えっ」
「えっ」
どうやら大事なことだから二回繰り返したようである。
……ええと。
「僕の聞き間違いでなければ、今エレミーはヴァンパイアじゃなくて……」
「そう、私の正体はサキュバス。人のリビドーを吸収し、魔力に変換することの出来る唯一の種族であり、正真正銘夜の支配者たる最強の女王」
僕は混乱しながらも、大きな行き違いがあったことを理解した。
そして思い切り突っ込む。
「そういう意味での夜の支配者かよっ!?」
実に紛らわしいことこの上ない。
「嘘はついてない」
……確かに、嘘はついてない。
「でも僕はてっきりヴァンパイアなのかと思っちゃってたよ!?」
「……? 私はヴァンパイアと名乗った覚えはない」
「まあサキュバスとも名乗って無かったけどね? でもその牙は?」
「チャームポイント。……かわいい?」
「世界一かわいい」
ボッ! と火がついたような音と共に、エレミーは耳まで熱された鉄のように真っ赤にした。
かわいいヤツめ。
……でもどうしよう、なんか一気に心許なくなってきたぞ。




