わざと当ててんのよ
相手がピッキングをして侵入をしようとしていることから、僕が起きていることに気付いてはいないはず。
これはこのピンチにおいて、唯一のアドバンテージだ。
こちらの動きに気づかれぬよう、物音に細心の注意を払いながら、僕はベッドから降り、エレミーの部屋を目指してそろりそろりと床を忍び足で移動した。
悪いことに、僕の部屋は一階で彼女の部屋は二階とかなり離れている。
焦らず静かに、されど急がなくてはならない。
僕がなんとか無事階段に差し掛かったその時、ついにカチャンという鍵の開けられた音が届いた。
マズイ!?
急がなきゃ!
急いで階段を駆け上がるも、「タッタッタッ!」という、足音を最小限に殺しながらもこちらへと走り寄る幾つもの足音。
それが僕のすぐ背後で止まった。
「止まれ」
冷たく抑揚の無い男の声に、僕は階段を上がる足を止めてビクリと肩を跳ね上げる。
声は続けた。
「ナギ・イザワだな?」
「……はい」
口から飛び出しそうになるほど、拍動を強める心臓。
頭に浮かぶ死の一文字。
絶体絶命。
今日の会談を成功させてしまったことで僕はどこかの誰かを怒らせ、即日中に暗殺の命令が下されたのだろう。
情けないことに僕は涙目で、ただただその場を動けずにいた。
僕の背中に刃物の先であろう尖ったものが当たる。
いや当たっているんじゃない。
わざと当ててんのよってか?
それならもっと柔らかいものがよかったよ……。
よし、こうなったら僕もリモコンとビール瓶で応戦だ(乱心)!
感情の無い声は続ける。
「悪く思うな。ただ貴様は少しばかり有能過ぎたんだ」
あっ、やっぱり僕は会談の件で殺されるんですね。
短い人生だったなぁ……。
……まあ、エレミーだけは守れただろうし僕にしては上出来かな。
僕は覚悟を決めて目を閉じようとした。
だが……。
あっ――!?
なんとこの最悪なタイミングでエレミーが階段を降り、目の前の踊り場に姿を現してしまったのだ。
踊り場の窓から覗く綺麗な満月を背負いながら、小さな少女の影が訊ねてくる。
「……誰? ……お客さん?」
……そうだよ。
ただし客は客でも招かれざる客……刺客だけど。
……なんてことだ。
まさかエレミーまで巻き込むことになってしまうなんて。
きっとコイツらは目撃者を放置しておく程甘くは無い。
エレミーを起こして逃げようなんて考えずに、大人しく僕だけが殺されておけばよかったのに……。
僕は自分の行動を呪った。




