勝負の一品
緊張しながら、エレミーと共に配膳台に乗せた茶菓子を運んでいく。
そしてセバスを先頭にして、会議室へと入室した。
「失礼致します。ティータイムのお菓子をお持ちしました」
……えっ。
会議室の中に入った僕は驚いてしまう。
あのいつもふてぶてしいエリュシカが、完全に憔悴し切ったような顔をしていたのだ。
大人びた口調と高慢な態度のせいで忘れがちだが、やはり彼女も子供。
一筋縄ではいかないような大人連中と数時間もやり合えば、こうなるのも仕方の無いことだろう。
それに配膳をしていて思ったことだが、各国の高官やその関係者達は、揃いも揃って皆タヌキやキツネのように狡猾そうな表情をその面に貼り付けていた。
こんな妖怪みたいなヤツらを相手に頑張ってたんだな……エリュシカ。
各国高官をもてなすために作った茶菓子だが、願わくはエリュシカにも癒しを与えたいものである。
全ての者に茶菓子が行き渡った所で、今度はメイド達がお茶を注いで回った。
それを見た各国高官達の表情が変わる。
その内の一人がメイドにこんな説明を求めた。
「この緑の茶は、一体なんの茶葉を使ったのでしょうか?」
メイドに代わり、僕が口を開く。
「まことに僭越ながら、その質問には私がお答えしましょう」
ざわっ。
品定めをするかのような目が、一斉にこちらを向いた。
これまでの僕なら、きっとこういう場面では緊張で声が出せなくなってしまっていたことだろう。
でも生憎、そういう目はエリュシカから向けられ続けたお陰でもう慣れっこだ。
「申し遅れました。本日のティータイムのお茶とお茶菓子の担当をさせていただきました、ナギ・イザワです」
僕がそう名乗ると、この場に居る者達がこちらを見る目がより厳しくなった。
だがそれくらいで緊張するもんか!
「まっ、まじゅっ……コホン、失礼致しました」
……やってしまった。
落ち着いて一度深呼吸をしてから、仕切り直す。
「まずはご質問をお受けしましたお茶について説明をさせていただきます。今回お出ししたこの緑茶は茶葉が本来持つ、自然の味と香りを最大限に引き出す飲み方です。香り、旨味、苦味を感じて、楽しんでいただければと思います。まずは皆様、一口味を見られてみて下さい」
僕がそう促すと、皆揃って緑茶に口をつけた。
「いかがですか? 紅茶よりも苦味が強く感じられたのではないでしょうか? そしてこの苦味こそが本日ご用意させていただきました甘味と、とても相性がいいのです。……蓋を」
僕がそう指示を出すとメイド達が、一斉に来賓の皿の上を隠すように覆っていた蓋を外す。
次の瞬間――!
「おお……!」
「なんと見事な……」
「これが茶菓子だと……?」
感嘆の声を漏らす者。
ため息をつく者。
目の前の光景を疑う者。
固まる者。
皆一様に僕の作った和菓子に度肝を抜かれているようだ。
もちろんエリュシカも先程までの顔が嘘のよう、その表情を年相応にほころばせていた。
更にはエレミーもヨダレを垂らし、今にも奪いかからん勢いで高官達の和菓子を見詰めている。
お前には後で食べさせてあげるから堪えてくれよ!?
皆のこのリアクションも、当然だろう。
なぜならば僕が用意した和菓子は、水辺の景色をまるまると再現していたのだから。




