アイディアはリラックス状態から生まれる
ベンチに並んで腰掛け、噴水を眺めながら会話もないままでアイスクリームを舐める。
……あれ、これって結構いい感じの休日なのでは?
さすがはマエストロ。
思い返せばさっきまでの買い食いだってそうだ。
僕は食事は栄養さえ摂れていればいいと考え、こっちの人が普段どういうものを食べて、どういうものを美味しいと感じて、どんな舌をしているのか、それを知ろうとしていなかった。
簡単に和菓子が受け入れられたからって、少し独りよがりになっていたのかもしれない。
そもそも和菓子が季節にあったものを出すのも、相手を楽しませるためだ。
もっと根本に立ち返り、相手のことを考えなくちゃいけなかった。
こうやってこちらの世界のものを食べることで、皆が普段食べているものを知り、そうすることで相手にとって何が普通で、何を出せば驚くのかも自ずとわかってくる。
相手を知らなければ、驚きも引き出せないのだ。
「ありがとう、小さなマエストロ」
「は?」
当然ながらエレミーは「何言ってんだコイツ」という目をこちらに向け、ポカンとしていた。
その後アイスクリームを食べ終わると、マエストロは急に川が見たいと言い出す。
僕は川がどこにあるのかわからないので、マエストロに案内を任せた。
「こっち」
時々振り返り、僕がついてきているかを確認しながらそう言う彼女を見ている内に、小学校からの帰り道に起こった嬉しかった出来事を思い出す。
昔仲良くなった近所の猫に、秘密の猫の集会所に連れていって貰った時のことを……。
あの頃はよく、プラモデルのジオラマとか作ってたっけな……。
しばらく進むと、急に目の前に清らかな小川が現れた。
「……こんな所があったんだな」
うすら汚れた街を抜けた先に、まさかこんな綺麗な川があったなんて。
この景色だけは、元の世界の面影が残ってるな……。
近所の川を思い出す。
「ちょっと前までは、夜に蛍も出て綺麗だった」
「そっか……」
二人で土手に腰掛け、サラサラと流れる小川を眺めた。
心が洗れるようだ。
気持ちも楽になった気がする。
……もしかして、エレミーは僕を気遣って休みを欲しがったのか?
自分が休めば、僕も休まざるを得ないことをわかっていて、それで……。
ずっと悩んでた僕に、気分転換をして欲しくて……?
とぼけた顔して、優しいんだな……。
……可愛いところあるじゃないか。
なら、その優しさに思い切り甘えようかな。
今だけは何もかも面倒なことは忘れて、ただただ魚の泳ぐ姿すら見える程透き通った、この小川に癒され……ん!?
この時僕の頭の中では、今日の出来事がハイライトのように浮かんでは、何かの形を作っていくようなイメージが構築されていた。
……ジオラマ……小川……魚影……。
――そうか!
その手があったか!
僕がすくりと立ち上がると、エレミーがこちらを不思議そうに見上げる。
「……エレミー」
「んー?」
「ありがとう」
「は?」
この後僕は店に帰るなり、早速先程のイメージを形にした。
……うん、これなら……これならばイケる!
日付は変わり、明日に会談を控えたこの土壇場。
僕はようやく茶菓子のメニューを決定するのだった。
この世界の人達が驚く顔が今から楽しみだ!




