密命
セバスに椅子を引かれ、着席するとすぐにエリュシカが口を開く。
「面倒な挨拶はいい、早速本題に入ろう。一週間後にナイフォン大陸全ての高官が我が国に集まり、会談を行うことになったのだ。……その顔は既に知っているようだな、ナギ」
「日にちまでは知りませんでしたけど、会談のことなら噂話程度には……」
「さすがは国一番の甘味処。様々な噂が集まってくるようだ」
「まあ……」
「レフィーから聞いてはいると思うが、私の用件はこれに関連したものだ」
「……と、いうことは、まさか――」
「そうだ、会談の場で出す茶菓子をお前に頼みたい。スイートナイツ初の出番という訳だ」
……やっぱ、そういうことだよな。
こうなることなら予想してはいたが、はっきりそう言われると責任感に押し潰されそうだ。
エリュシカは続ける。
「ナギを起用することには、正直なところ元老院を中心に批判の声も上がっていた。だが私は自分の権限においてそれら批判をはね除け、自分の意見を押し通した。それがなぜだかわかるか?」
「い、いえ」
「わからぬのなら教えよう。我が国がナイフォンの覇権を手にし、平定するためにはこの会談の成功が絶対的に必要だ。そしてその成功はお前にかかっていると言っても過言ではない。ナギ無しでの成功などありえないのだ」
そ、そこまで僕を買っていると言うのか!?
……うぅ、僕の気なんか知らずにプレッシャーをマシマシで上乗せしやがって……吐きそ。
「同時に、今回の会談はイド帝国の力を見せる格好の場でもある。つまりはチャンスということだ」
ここまで言ったところで彼女は、その表情を和らげ、こんな前置きを始めた。
「……と、まあここまでが女帝としての私の言葉だ。そしてここからが私の願い……」
「……?」
不敵な笑みを携えながら、エリュシカが力強い言葉を放つ。
「存分に腕を振るえ、ナギ! そしてお前の作る甘味で全ての国のヤツらに……いや、私の度肝すら抜いて見せてくれ!」
「……」
……くそ、発破のかけかたまでうまいのかよこの幼女は。
やる気にさせてくれるじゃないか!
「わかりました、やってみせましょう」
「会談での茶菓子、楽しみにしておるぞ?」
「はい!」
こうして、僕が密命を受けたことで会議は終了。
さっさと解放された。
しかしエレミーがなぜか不服そうである。
「……どしたの?」
「ケーキ出なかった」
「ああ、そういうことか。まあ夜も遅いから仕方ないよ」
行きと同様に同行するレフィーも連れ、まだ営業している酒場で簡単な食事を済ませたのち、夜中の内に店へと帰宅した。
各々部屋に戻り、僕はすぐにベッドへダイブし、目を閉じる。
……だが、そう簡単に寝付けそうもない。
なぜなら「わかりました、やってみせましょう」と大見得は切ったものの、ぶっちゃけ会談当日に何を作るかの大まかな見当すらついていなかったのだから……。
一週間後かぁ……。
急だよなぁ……。
これは睡眠不足の日々が続きそうだ。
その通り、僕の苦悩に満ちた睡眠不足の一週間がこの日より始まる。




