嵐の後の瀕死の静けさ
青天の霹靂のように突如として現れたエリュシカは、逃れられない程の強風の渦で僕とエレミーとこの店の運命すらも巻き込み、嵐のように去っていってしまった。
店の椅子に座り込み、しばらく僕は放心してしまう。
「ふう……」
台風……いや、竜巻みたいな女帝だったな……。
もしもあのやり取りが計算されたものだとしたなら、かなり人心掌握に長けてるってことだよな……?
最初の高圧的な態度やチェルシーの暴走が鞭で、その後の甘い話が飴ならば……やり手なのか?
そして僕はうまくしてやられたってところか?
あんな幼女姫に?
……利用された挙げ句、ポイ捨てされないように気を付けよう。
ところで……。
僕は近くに居るエレミーに、こんなことを訊ねた。
「勝手に色々と話が決まっちゃったけど、いいの?」
彼女のことなどお構い無しに話を進めてしまっていたため、その本心が気になっていたのだ。
だがそんな心配を余所に、エレミーはあっけらかんと答える。
「夜の支配者の種族の末裔な私には、ナイトの称号も相応しい。断る理由は無い。むしろ新しく美味しいお菓子が食べられるみたいだし、ウェルカムトゥようこそ大歓迎」
「あ、そうですか」
ってかまだその設定引きずりますか。
まあエレミーがいいならいいか。
「ねえナギ」
「ん?」
「ナギは過去から来たから、なんにも知らなかったんだね」
ああ、そうだった。
そのこともあったんだ。
「ああ、うん。……ごめんね、何も話してなくて。うまく理解して貰える自信がなくて、適当に誤魔化してたんだ……。それに過去から来たっていうのも、さっき聞いた通り今日初めて知ったことなんだ。僕自身はこの世界を異世界だと思い込んでてさ……」
「わかってる、だから怒ってない」
「……ありがとう」
「それに秘密は誰にでもあるもの」
「エレミーにも?」
「女は特に秘密だらけ」
「――ぶふっ! ……ありがとう、笑ったら元気が出たよ」
「別に笑わす気は無いけど? ナギ、失礼」
「ごめんごめん! アッハッハ!」
「むー」と頬を膨らませたエレミーは、「失礼」と言いながら僕の頭をポカポカと殴打したのだった。
「あはは! 痛い痛い!」
ポカッ!
六のダメージ。
ポカッ!
六のダメージ。
ポカッ!
六のダメージ。
……。
「痛っ!? ちょっ、ホントに痛っ!?」
計五十四ダメージ。
僕の総ヒットポイントは多分五十五くらいなので、残りは一。
危うくじゃれあいで死ぬとこでした。
こうして僕の異世界? 物語はスローライフものから完全に一転。
一気にきな臭さ満点の国家戦争ものへと変化する。
だが僕に出来ること、やるべきことに変わりはない。
和菓子をこちらの世界で再現し、その美味しさがこちらの世界の人々に通じるか挑み続けるのみ。
僕達の戦いはまだ、始まったばかりだ!
――っていうと打ち切りエンドみたいだが、物語はまだまだ続くのだ!




