夢を見る
考えがまとまったところで、僕は言葉を発しようと口を開きかけたが、それよりも先にエリュシカの方が話し始める。
「……私のことを若過ぎる国の長だとは思わんか?」
「えっ」
「心の中では、どうせチビ姫とでも呼んでいるだろう?」
「……」
「その通りだ」
「えっ」
一瞬、心の声をうっかり口にしてしまったのではないかと焦った。
だがその言葉は、エリュシカ本人が発したものだったのだ。
彼女は続ける。
「私などセバスの知恵や助言や、四六時中チェルシーに守られねばならぬ程矮小な存在だ。元老院すらまとめきれぬ。この国の民もそれに気付き、さぞ私に落胆していることだろう」
一瞬の沈黙。
セバスもチェルシーも眉根を寄せた苦々しい表情で目を伏せた。
何か嫌なことでも思い出したのか、目に涙を溜めながらも、重々しそうにエリュシカが先を続ける。
「……それもそのはず。私には女帝としての能力など備わっておらんのだからな。先代皇帝である父上と母上が揃って暗殺されたからこそ、なんの準備も無いまま、唯一の直系の血筋というだけで無知な私が玉座の上へ担がれたに過ぎないのだ。愛称だなんだと、未だに姫殿下と呼ばれるのも、その表れだろうな……」
正直なところ、僕はここまでを聞いてこう思った。
ありがちな設定。
よくあるかわいそうなお姫様の話だな……と。
でもそれは物語の中のことであって、現実に目の前の少女がそんな酷い目にあっていたなどということは初めてである。
いくら物語の中で飽きようと、やはり現実で起これば話は別。
僕も深く同情せずにはいられなかった。
口を一文字に結び、泣きそうになったのを堪え切った後にエリュシカは続ける。
「だが私は、こうなったからには役割をまっとうするつもりだ。妥協はしない」
……こんな小さな子が、僕が味わったことの無いような大きな苦労をしてるんだな。
まだ親に甘えたい歳だろうに、それが出来ないどころか、国をまとめろなんて無理難題まで突き付けられて……。
もしも僕がそんな立場なら、おかしくなってしまうに決まってる。
なのにこの子はこんなにも気丈に振る舞って、しっかりと前を向いてて……。
本当、尊敬するよ……。
「私の父上である先代皇帝は、ナイフォンの平定を夢想していた。そしてそのための努力も怠らなかった」
……立派な夢だ。
きっと先代皇帝自身も、立派な方だったのだろうことがわかる。
「玉座を受け継いだからには私も父上の夢を引き継ぎ、この世界から戦争を無くすために力を尽くそうと考えている。父母上の無念は、私が必ず晴らさねばならないのだ」
そのアメジストの目の奥には、煌々と火が点っていた。
この子は夢を実現できると、疑っていないんだろうな。
「それに私自身も父上が夢想し、実現を目指したいさかいの無い平和な世界を、見てみたいのだ」
そして同時に、その夢を実現させてあげたくなるじゃないか。
応援したくなるじゃないか。
いや、応援だけじゃ足りない。
僕なんかが力になれるって言うのなら……こんなにも頼られたなら……。
助力してあげたくなってしまうじゃないかッ!




