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異世界甘味処 木の実  作者: 兼定 吉行
真実、願い、決意
39/87

甘味開発競争

「でもあの、ご存じの通り僕に戦える力は無いし……」

「私もそう思っていた。だが違った。何度でも言うがお前には特別な力がある。菓子作りのな」

 そう言われても、僕にはなぜそうなるのかがさっぱりわからない。

 本当に他国と戦争の代わりに、お菓子作りバトルでもするのか? 

 それともパイ投げのように、お菓子をぶつけ合うことで勝敗を決する戦争のやり方があるとか? 

 って、そんなわけないだろ! 

「それで本当に戦争が止められるんですか!?」

「……うまくいけば……だが」

「具体的にはどうやって?」

「……なんだ、本当にお前はわかっていなかったのか。菓子作りをするお前こそ、それが持つ力を理解しているものと思っていたが」

「生憎、僕は平和な国から来たんです。菓子作りを戦争に使おうなんて考えたこともないし、わかる訳ないじゃないですか」

「なるほどな」

 そう納得してから、エリュシカは話し始めた。

「……菓子というものには、無限の可能性が秘められている。甘味は庶民にとっても上流階級の人間にとっても、この世界では一番の娯楽。当然皆甘味の流行に敏感で、その話題もすぐに拡散する。私がこの店のことを知ったのも、そういった事情からだ」

 そういえばエレミーも同じことを言っていたな。

 僕は口を挟まずに、耳を傾ける。

「そしてそれは他国とて同じ。それ程の存在である甘味は貿易にも、取引の材料にもなる。そして会談の際は、相手を説得させる力にもなるのだ」

……そういうことか。

 段々飲み込めてきたぞ。

 つまり和菓子は交渉なんかを有利に進める材料になるってことか! 

 力って言ったのも、そういうことだったんだな……。

 エリュシカの説明はなおも続いた。

「甘味を含めた菓子のレベルこそ、この世界では文化の成熟度……ひいては工業力や魔法研究の分野の成長度合い、そして軍事力すらも示す指標となっている。よって甘味にはどこの国も力を入れているのだ。今までに見たことのないものを開発し、自国の特色を出そうと躍起になっている」

「まさか、そこまでだったなんて……」

 この世界では甘味が、米ソ冷戦時における宇宙開発競争みたいなポジションになっているのか……。

「菓子は甘いだけではない。その甘味の中に、その国の強大な力を思い知るのだ」

「な、なるほど……」

「……私は出来るだけ穏便に和平交渉を結びたいと考えている。甘味だろうがなんだろうが、そのためにはなんだって利用するつもりだ。……甘味だけに、甘いと思うか?」

「いや、立派だと思います。ダジャレはさておき」

 ダジャレに言及されたことが恥ずかしくなったのか、顔を耳まで真っ赤にしてからエリュシカが言う。

「ありがとう。それで……」

 しっかりと、彼女の目が真っ直ぐに僕の目を捉えた。

 そしてこう、訊ねてくる。

「……やってくれるか?」

「……」

 そう言われても、すぐに答えられる訳がない。

 その重過ぎる役割に、僕は閉口した。

 だって僕一人のミスで戦争になって、人が沢山死ぬ可能性があるんでしょ? 

 ムリムリムリムリムリムリ! 

 勇者とか救世主とか、僕には根本的に向いてないんだ。

……丁重に、かつはっきりとお断りしよう。

 その上で元の時代に戻して貰えないかを、今度はこっちから土下座交渉だ!

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