やっぱり勇者
「頭を上げて下さい」
「これが望みだろう? なぜ止めるのだ」
グググとこちらの手を押してまで、まだ土下座を続けようとするエリュシカに対し、僕は口を開く。
「……ま」
「ま?」
「まさか本当に女帝ともあろうお方が、僕ごときにそこまでするなんて思もしませんでしたからね!?」
「それが誠意だと言うのなら、立場などにこだわっている場合ではないと判断したのだ」
「とりあえず頭を上げて椅子に座って下さい。気持ちはしっかりと伝わりましたから」
「ふむ」
エリュシカが立ち上がると、チェルシーが手を、セバスが膝の汚れを払った。
戸惑いながらも僕は、先程からずっと疑問に思っていたことを訊ねる。
「で、でも僕には魔法も剣も、何も戦う力はありませんよ? どうしてそこまで僕にこだわるんです!?」
「いいや、力ならある。それもとびきりのな。私はそれに気付けなかった無能だ。土下座も当然だろう」
「いやいや!? もしかして、お菓子を作ることが力だとでも言う気ですか……?」
「その通りだ」
「はあ?」
お菓子作りでバトルするのがこの世界の習わしなのか!?
……いや、それは無いか。
僕が考えている間にも、エリュシカは続けた。
「そしてもう一つ、お前には気になっていることがあるはずだ。どうやれば元の時代に帰れるのかがな……」
「そうそう、そうですよ! そこ重要!」
「お前も気付いているだろうが、召喚の術が存在するということは帰還の術も存在する」
「つまり、姫殿下のお気持ち次第で僕は元の時代に帰ることが出来ると?」
「その通り。だが条件がある」
「もしかして、その条件って……」
「そう、元の時代に返す条件はただ一つ」
固唾を飲んで、エリュシカの次の言葉を待つ。
するとその口元が、重々しく開かれた。
「今こそ正式に依頼しよう。ナギ……そなたの力でこの世界を救って欲しい」
「……やっぱりか」




