おでこと地面のマリアージュ
「一度僕を放逐しておいて、なぜ今更そんな重要な世界の秘密のことを教えてくれたんですか? 僕は勇者じゃなかったんですよね? 今日はお菓子を食べに来ただけじゃないんですか? どんな狙いが……?」
「順を追って説明するが、まずはその節の非礼を詫びよう。あの時は私も非常に焦り、気が立っていたのだ。どうか許してくれ」
僕はあの時の理不尽さを思い出し、つい苛立ちながらこう言った。
「へえ、頭も下げずに謝罪ですか?」
当然、チェルシーが額に青筋を立ててブチギレる。
「きっ、貴様!?」
しかし、すぐにエリュシカによって待ったが掛かった。
「下がれチェルシー!」
「くっ……はい」
嫌々といった風に引き下がったチェルシーをはた目に、僕は調子に乗って続けた。
「さあ姫殿下、そのロイヤルつむじをこちらに見せて下さい。ジャパニーズトラディショナル土下座でね! わかりますか!? 土下座のやり方が! 跪いて、手もつき、無様にデコと地面でキスをするんですよ! 貴女がそこまでするというのなら、僕は謝罪を受け入れることもやぶさかではありません」
どうせ、こういう種類の人間は他人に対して本気で謝罪などしないのだ。
僕はそう思い、わざと無理難題を吹っ掛けた。
なのに……。
「……よかろう」
――なっ!?
思わぬ返事に僕は戸惑う。
当然チェルシーの戸惑いは、僕以上であった。
「姫殿下!? お言葉ですがこのようなゲスの極みに乙女が……陛下が頭を下げるなど――」
これにエリュシカが、言葉を被せるようにして怒鳴る。
「黙れチェルシー! 二度も口を挟むか!?」
「しかし……」
「そなたの行い、目に余るぞ! 立場をわきまえよ!」
「はっ! 出過ぎた真似、失礼致しました」
「わかればよい」
そう言うとエリュシカは椅子から立った。
どうせ、土下座なんてできないさ。
正直僕は覚めた目で、これから行われるであろう茶番を眺める。
きっとチェルシーが、なんだかんだ止めるのだ。
まずエリュシカは、おもむろに両の膝を床についた。
次に両の手を……。
……おい、そろそろ止めるべきじゃないのか?
出番だぞチェルシー。
そう思いチェルシーを見れば、彼女は握り込んだ拳と噛み締めた唇から真っ赤な血を流しているではないか。
えっ。
この辺りで、僕は自分の過ちに気付かされる。
……これ、ガチのやつじゃん!?
エリュシカがつむじを晒しながら、つるんと丸く可愛らしいおでこを床へと近付けていった。
うわぁ。
ドドドドン引きだよ!
おいおいおいおい!?
ちょちょちょっ!?
まずいまずいまずい!
このままじゃ僕が世界で一番の悪者みたいじゃないか!?
もうすぐにエリュシカの前髪と床が触れるというところで、僕はヘッドスライディングをかます。
ズザァッ!
「摩擦熱痛い」とか思う間もなく、右手をエリュシカのデコと床の間に差し込んだ。
……間一髪。
僕は鬼畜にならずに済んだのだった。
ギリギリセーフ!
誰がなんと言おうが膝と手しか付いてないからセーフ!
土下座鑑定士の僕に言わせれば、こんなものは土下座の内に入りませーん!
よかった、女の子に土下座させる鬼畜主人公なんてどこにも居ないってことだね!
だが、エリュシカは不満そうである。
こちらを睨みながら言った。
「……何をする」




