バシャで来た
翌朝。
開店準備を済ませ、営業中と書かれた看板を出そうと庭に出ると、既に門の前に客のものらしき馬車が留まっているのを見付ける。
帝都から来た貴族だろうか?
どうやら昨日エレミーが推理した通り、この店の名は思っていた以上の広範囲にまで轟いているようだ。
……プレッシャーだな。
適当なものは出せないし、こうなってくるとますますこれからの商品展開が重要になってくるぞ。
気を引き締め、看板を出すのと同時に、馬車の中に居る姿の見えない客であろう誰かに向かって挨拶をする。
「ただ今本日の営業を開始しました。ようこそ、いらっしゃいませ」
するとぎょ者が前方のベンチ台を降りてきて、馬車の扉を恭しい様子で開いた。
そのまま最敬礼の姿勢を取る。
するとまずはそこからお伴らしきプレートメイル装備の金髪青眼女騎士が馬車を降り、次に白いお髭が素敵な、執事らしきモーニングを着込んだロマンスグレーの男が続いた。
執事らしき男はぎょ者のように最敬礼し、女騎士は馬車の中へと手を差し伸べる。
「お手をどうぞ」
「うむ、ご苦労」
そう応えた声は、随分と若そうだった。
どこかで聞いたような声だな……。
一体、どんな貴族様が乗っているんだ?
仰々しいやり取りをしたのち降りてきた人物を見て、僕は心臓が止まるような思いをする。
「あっ、ああ、あああ……」
コイツは……ッ!?
今の気分を言い表すならば、ナッパから身を挺して自分を守ったピッコロが、目の前で殺されてしまう場面を目撃してしまったゴハンの心境に近いかもしれない。
ごめんやっぱり全然違うけど、えーと、うーん、まあ多分そんな感じだ。
馬車から降りてきたその人物は僕を見付けるなり、氷のように冷たい眼差しを隠そうともせずこちらに向けてきた。
僕はこの目を知っている。
コイツは――。
「姫……殿下……」
そう、なんと彼女の正体は全ての元凶であるあのチビ姫だったのだ。
「ふむ、忘れられてはおらぬようだな。それと頭が高い、不敬であろう」
確かに昨日僕はエレミーと共に、和菓子が食べたいのならそっちから来いとのたまった。
でも普通来なくね?
……どうやら、とんでもないことになりそうだ。




