召喚状
「なんだよ、これ……」
まさかの城から呼び出しに、僕は戸惑った。
しかしエレミーは淡々と現状の分析をする。
「多分、この店のお菓子の評判が城壁を越え、帝都の最深部にまで届いたんだと思う。きっと興味津々。食べたがってる」
「いやそんなバカな。ありえないよ」
僕は楽観的なその考えを一蹴した。
だが彼女はなおも意見を曲げない。
「ありえなくない。甘味は庶民にとっても上流階級の人間にとっても一番の娯楽。みんな流行に敏感だから、その話題はすぐに広まる」
「な、なるほど……。でもそれにしたって、まだ一ヶ月も営業してないんだよ? よくもまあ僕とこの店の噂を聞き付けたもんだ……。もしかしてこの店の和菓子を調べに、お客さんの中に王様の勅命を受けたスパイが混じっていたかもね! あはは!」
当然冗談のつもりで僕は言ったのだが、エレミーはそうは受け取らなかった。
「スパイというのもあながちありえない話じゃない」
「えっ!?」
「甘味を扱う店舗内で人は気持ちが弛み、余計なことまで喋りがち。そういった場所から情報を得ることも、帝都の諜報員達はやってると思う」
「ま、マジか……」
「マジのマジ。ガッチガチのガチ」
……まあ、ネガティブな意味での呼び出しではないという想像がついたことはよかったかな。
エレミーが訊ねてくる。
「それで帝都にはいつ行く?」
「行かないよ!」
「えっ」
「行かない」
「なんで?」
当然の疑問をぶつけてくる彼女に僕はこう言ってやった。
「クソ生意気なチビ姫が嫌いだから」
「同意。現最高権力者の姫殿下の評判はよくない」
「やっぱりね! ま、そういうことだから」
「そういうことなら仕方ない」
「うちの和菓子が食べたいならそっちから来いってんだ!」
「そうだそうだー」
僕は手紙をくしゃくしゃと丸め、それをゴミ箱に放る。
「さ、今日はもう遅くなっちゃったから、旅の支度は明日やろうか。それにお店もまだ休みにした訳じゃないから、早起きして仕込みもしなきゃだしね」
「おー」
「じゃあおやすみ」
「おやすみ」
床に就き、睡魔になされるがまま意識を手放すと、今晩もまたいつも通りに真夏の夜の淫夢が始まるのだった。
……溜まってるのかな。




