難点
まずこの世界には、うるち米と餅米とを分ける概念がない。
米は米でしかないのである。
なのでせめて米を選ぶ際には餅米の近縁種が無いものかと、わざわざ毎回違った産地のものを店主に訊ねてから買っているが、今のところなんの成果も得られませんでした!
その内に壁の外……じゃなくて餅米探しの旅をする必要性もありそうだ。
それだけじゃない。
和菓子に必要な素材は全て自分で作るか探すかしか方法がないため、四季折々の商品を提供したいこちらとしてはかなりきつい状況なのだ。
醤油も寒天も……緑茶だって紅茶しか存在しないこの世界においては、自分で茶葉を入手し、蒸したり揉んだり加工するしかない。
もう髪の毛から醤油を作ってしまおうか……?
いやいや、それは水銀とかヒ素とか色々危ないから絶対にやっちゃダメだ!
弱ったなぁ……。
このように現状は無い無い尽くしで、非常に追い込まれていた。
木の実開店から数週間が経つ頃、ついに僕は決心する。
「エレミー」
「なに?」
「これから僕はお店を少しの間休んで、農村を巡って理想の米を探しに行こうと思うんだけど……どうかな?」
「旅に出るってこと?」
「うん」
「ナギがそうしたいなら好きにしていい。私はついてく」
「エレミー……勝手なことを言ってごめん、ありがとう」
「だってもっと美味しいお菓子が食べられるんでしょ? 反対する理由が無い」
「でも、折角軌道に乗ったお店を休んだら、お客さんがもう戻ってこないかも知れないんだよ?」
「大丈夫、私はナギの作るお菓子の味を信じてるから」
「エレミー……」
「あの味を知った人達は、そう簡単には離れていかない。もはや麻薬中毒患者」
「他に言い方無いかな!?」
……まあ確かに。
植物から精製した中毒性の強い物質って意味では、麻薬も砂糖も変わらないけど。
いや、むしろ麻薬より砂糖の方が中毒性が強い分質が悪いかも知れない……。
なんか変なことを言ったっけ?
……と言った顔でこちらを見上げるエレミー。
彼女の言うことには、どこか妙な説得力があるのだった。
そんな訳で店を当分休みにして、餅米探しの旅を実行に移そうと、営業終了後に計画を立てていたその矢先のこと。
僕の元へと覚えの無い不審な手紙が届く。




