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異世界甘味処 木の実  作者: 兼定 吉行
物件探し、準備、開店
24/87

木の実

 かくして翌日、僕とエレミーによる和菓子店が開店した。

 邸の入り口に、木製立て看板を置く。

 そこに書かれた文字は「木の(このみ)」。

 緑に染め上げられたこの邸と、そこから与えられた葛粉という恵みから着想を得たものだ。

 もっとも葛は木ではなく蔓性の多年草だし、実もつけないが、まあ例えである。

 店名とその由来をエレミーに伝えると、「ぴったり、いい名前」と彼女も両手を上げ……はしなかったが、賛成してくれた。

 さあ、僕の人生初の大きな挑戦の始まりだ! 

 手縫いの青い作務衣風作業着に身を包み、僕はエレミーと二人で最初の来客をドキドキしながら待つ。

 するとすぐにその時は来た。

「いらっしゃいませ、おはようございます」

 僕とエレミーは声を揃え、そう挨拶をした。

「あらあら、開店おめでとうねぇ」

「変わった雰囲気の菓子屋だな」

 入ってきたのは中年の男女。

 彼らは近所に住む夫婦で、若い僕らが何やらやっているということで、開店準備の時から色々と気に掛けてくれていた優しい人達だ。

「どうぞ、こちらへ来てお菓子をご覧になって下さい」

 僕がそう促すと、彼らは興味深げな顔で陳列した商品を眺める。

「まあまあ、どれも見たことが無いものばかりね」

「透明なやつが綺麗だが、この掛かっている黄色い粉はなんだ?」

「はい、そちらの葛餅に掛かっているのは大豆の粉で、黒いものは黒糖を溶かしたものです」

 ご主人の質問に答えると、今度は奥さんが訊ねてくる。

「じゃあこっちの、中に黒いものが入った透明な飴玉みたいなものは何かしら?」

「そちらは小豆を甘く煮たものを、葛の根から取った澱粉でつつんだもので葛団子と言います」

「じゃあもしかして、こっちの白くてまるっこいやつの中にも小豆を甘く似たものが入ってるのか?」

「はい、その通りです。小豆を甘く煮たものを、米を挽いた粉で作った生地で包んであります」

「小豆を甘くねぇ……ちょっと味の想像が出来ないわ」

 奥さんは困ったような表情を浮かべてそう言った。

 前にも述べた通り、黒い食べ物に馴染みの無い人々が抵抗を示すことは必然。

 こうなることがわかっていて、何の対策もしていない訳がないのだ。

 レッツ、スーパーの試食作戦!

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