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異世界甘味処 木の実  作者: 兼定 吉行
物件探し、準備、開店
20/87

かすていら

――ここまで砂糖、米粉、葛粉等と、和菓子に必要な材料の幾つかを手に入れた。

 これにより餡団子や葛餅、葛切り、葛団子等の和菓子が作製可能となる。

 そんな僕が次に目をつけた材料は麦。

 大麦を使って、麦芽水飴を作ろうと考えたのだ。

 なぜならばパン食メインのこの世界において、麦は最もポピュラーな炭水化物であり価格も安い。

 よって大麦を発芽させた麦もやしも、エールやビール造りが盛んなため同じく安価に手に入る。

 麦もやしを作る手間が省ける上に費用が掛からないと、まさにいいことずくめ。

 これはもはや麦芽水飴を作れと神に言われているようなものだ。

 そんな訳で材料を揃え、早速制作に取り掛かった。

 壷に入れて棒をズコズコと出し入れする(非性的な意味で)ことで精製した米でお粥を作り、火から下ろして温度が六十度くらいになるまで冷ます。

 そこへ乾燥させて砕き、粉末状にした麦芽を投入。

 混ぜ合わせることでドロドロだったお粥がザラザラとした感触に変わるので、そうなったら一晩放置する。

 翌日濾し布でお粥を濾し、それを液体の量が半分以下になるまで、灰汁を取りながら煮詰めていけば麦芽水飴はほぼ完成。

 後は保存用の容器に移し、冷ますのみだ。

 こうして出来上がった麦芽水飴を使って、僕が次に作った和菓子は――。

「これ知ってる。一回食べたことあるし」

「えっ」

 僕が新たに作ったお菓子を見せるなり、エレミーはそう予想外の言葉を言い放ったのだった。

 彼女は続ける。

「パオンデローって言うんだよね?」

 パォン・デ・ローとは、ポルトガル生まれの洋菓子だ。

 呼び名が僕の元居た世界と同じだが、多分翻訳魔法が僕が理解出来るよう……あるいは僕の記憶の中からこの世界のお菓子をそう訳したのだろう。

 それはともかく、僕はこのパォンデローのようなお菓子をエレミーに勧めた。

「一口……まずは一口食べてみてくれるかな?」

「まー食べるけど」

 そう言うと彼女は四角く黄色いスポンジ状の生地をフォークで切り分け、口の中に放り込んだ

 もっくもっくと顎を動かしながら、途中「はてな」と言った風な顔をして訊ねてくる。

「前食べたのとなんかちょっと違う」

「どこが違うかわかる?」

「なんかちょっと、こっちの方がふかふかなのにしっとりしてる。あと匂いが独特?」

「よくわかったね。その通りなんだ」

 僕が今エレミーに食べさせたのは、何を隠そう日本国民にとっては三時のおやつとして有名なカステラだ。

 カステラはそもそも安土桃山時代に、ポルトガルから伝わった南蛮菓子。

 しかし現代ではこれも、和菓子の一種として分類、認識されている。

 その一番大きな理由。

 カステラを和菓子たらしめているものこそ、何を隠そう麦芽水飴だ。

 カステラのルーツとも言われているカスティーリャ地方のパンもビスコチョもパォン・デ・ローも、そのどれもが甘味を出すためには砂糖を使っていた。

 だが日本では砂糖に代わり麦芽水飴を用いたことで、独特のしっとり感と和菓子特有の風味を生み出したのだ。

「……それで、味はどうかな?」

「卵のこってりした風味と、水飴がマッチしてる。美味しい」

「よっしゃ!」

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