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異世界甘味処 木の実  作者: 兼定 吉行
召喚、放逐、出逢い
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召喚、失敗!

「いつもお買い上げいただきありがとうございます」

「いえ、こちらこそ美味しい和菓子をいつもありがとうございます!」

 七月一日。

 高校一年生の僕、伊澤凪(いざわなぎ)にとって毎月の一日はお小遣いの日。

 つまり月に一度の上生菓子の日だ。

 和菓子を食べるのも作るのも大好きな僕であるが、やはりちゃんとした和菓子店で練り切り餡の詰め合わせ……つまり箱買いをするような贅沢が出来るのはこの日だけである。

 店員のお姉さんに見送られ、買ったばかりの商品が入った袋を手に、ルンルン気分で和菓子店から出た僕は直後、言葉を失った。

……どこだここ。

 それに誰だよ、この人達は……。

 店を出た先は舗道であるはずなのに、なぜか僕は薄暗い部屋の中心で黒いローブを着込んだ四人の男達にぐるりと囲まれていたのだ。

 今出てきたばかりの和菓子店も当然背後に無い。

 それどころか足元には怪しげな魔方陣のようなものが、どういう仕掛けなのか微かに青白く光っている。

 なんなんだこの状況!? 

 まさか秘密結社……フリーメーソンリー!? 

 僕は拉致でもされたのか!? 

 だが、そうではなかった。

 それ以上の事が我が身に起こっていたのだ。

 混乱している僕を置いてきぼりにし、ローブの男の一人が驚いた様子で告げる。

「黒き髪に黒き瞳……言い伝え通りじゃないか! 彼が救世の勇者で間違いありません! 召喚の儀式は成功です!」

……は? 

 救世の……勇者……? 

――僕がっ!? 

 それに召喚の儀式って……。

 その時だ。

 部屋の隅の暗がりから、小学校高学年くらいであろう一人の小さな少女が現れた。

 大きくも凛々しい目。

 アメジストの瞳。

 爪楊枝が乗りそうな程に長い睫毛。

 光を乱反射させて閉じ込めたような、透明感のあるキメ細やかな肌。

 銀色の長髪ハーフツインテールには、プラチナのティアラが乗っている。

 白を基調に紫の挿し色が入った、レースがふんだんにあしらわれた見るからに高級そうなドレス。

 それら身に付けた物や気品漂う立ち居振舞いから、彼女がローブの男達よりも立場が上であろうことが窺える。

 そんな浮世離れした美しさに状況すら忘れて見とれていると、少女もこちらへと視線を寄越した。

 その目はドキリとしてしまう程に冷たく、品定めでもするかのようだ。

 そして実際、彼女は僕をそういう目で見ていたようで……。

 あどけなさの残った可愛らしい声で、一方的に詰問でもするかのように訊ねてくる。

「魔法はどの程度使える?」

「は!? 魔法!? そんなもの使える訳が無いじゃないですか」

「えっ」

「えっ」

「……では剣はどうだ?」

「はい? 剣ですか!? 握ったことも無いです!」

「えっ」

「えっ」

 表情にこそ出さないが、どうやら彼女にとって今のは想定外の受け答えだったようだ。

 明らかに戸惑っているであろうことが、空気を通してこちらにも伝わってくる。

 それから彼女は責めるような視線をぐるりとローブの男達に預けた後、無情にもこう言い放った。

「この者を帝都から摘まみ出せ」

「えっ」



「えっ」


 バタン! 


 僕の目の前で、帝都とやらへと通じる巨大な城壁の門は堅く閉じられる。

 訳がわからず立ち竦んでいると、門兵が金貨三枚をこちらに向けてポイと放った。

 それは「チャリンチャリン!」と石畳の上を跳ね、僕の足元付近に転がって止まる。

「姫殿下からせめてもの餞別だそうだ。贅沢をしなければ十分に新たな生活を始められる額だろう。ありがたくそれを受け取って今すぐこの場を立ち去れ、無能」

 それだけを言うと門兵は僕など見えていないかのように背筋をピンと伸ばして正面を見詰め、自分の仕事に戻った。

……最後の一言いらなくない? 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 間というか空気感というか、そういった表現が巧い、という印象です。 笑いどころもあります。 それに読みやすいです。
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