第5話 18年来の幼馴染は恋人で親友
「俺のこと、ニブチン言うけど、沙耶も相当なニブチンやと思うで?」
沙耶の告白を聞いて、一言、言いたかったのがそれだった。
「ニブチンって。どこがよ」
ぷぷ。震えてる。震えてる。
「俺がお前の想いに気づかなかったからニブチンなんやろ?」
「ち、違うっていうん?」
「それは否定せえへん。でも、俺の想いに気づかんかった沙耶やってニブチンやろ」
言葉にしなかったけど、気持ちを隠したつもりはなかった。
「そ、そんなこと言うても。悠一が言葉にして、ウチの事好きって言うてくれたこと、一度もないやろ!」
沙耶は沙耶で、納得が行かないらしい。
「やったら。俺がいつも、デートの時に手を繋いどったんは、何故やと思うん?」
でも、特に反応が無かったから、俺は静かに彼女の事を応援しようと思ったのに。
「や、やって。悠一は、ふつーに手を繋いでくるんやもん。わからんって!」
「なんや、それ。人を仙人みたいに」
「言葉にして、色々言うてくれたら、ウチやって誤解せぇへんかったのに」
沙耶がちょっと泣きそうになっている。俺が言い過ぎた?
「俺もちょっとは悪かったって反省しとるよ?」
「……」
「でも、その辺は沙耶も同じなわけで」
しどろもどろになりながら弁解してしまう俺。
「もう、そんな言い訳はどうでもええから。今、欲しい言葉、くれへんの?」
真っ直ぐに、少し潤んだ目で俺を真っ直ぐに見つめてくる双眸。
ああ、そうだよな。確かに、まだ、ちゃんとは言ってなかった。
「沙耶。お前の事が好きや。彼女になって欲しい。俺のモノになって欲しい」
「俺のモノ」はカッコつけ過ぎた?
ふと、彼女の顔を見る。
心底から幸せそうな、この世いっぱいの幸せを集めたような顔をしていた。
「ウチが……ウチが、その、悠一のモノ?……」
あれ?なんだか、言葉が効きすぎた?
「沙耶。戻ってこーい。おーい」
「ちょ、心臓に悪いんよ。悠一のモノになれとか。キュンて来てしまうやん」
胸に手を当てて、すーはーすーはー言う仕草はとても可愛い。
「やったら。ウチは、悠一の彼女に……ううん、悠一のモノになりたい!」
「え?」
「あ、モノちゅうんは、ウチを独り占めして欲しいちゅうくらいの意味で……」
しどろもどろになっているけど、いや、本当に何考えていたのやら。
「とにかく、これからはカレカノ、っちゅう事でええんやね?」
「そ、そう言ってるやろ!」
顔を真っ赤にして言い返してくる沙耶。
こいつに、こんな純情な一面があったとは初めて知った。
そして、旅館に返って来た俺たちは。
「1時間も何してきたんやー、悠一?」
「沙耶ちゃんも、一緒に帰って来て。何してたのかなー?」
なんて、和樹と由美にお出迎えされたのだった。
鞍馬からの帰りの途中の列車にて。
「和樹たちはともかく、俺たちも、くっつくいうんは色々予想外やったな」
「悠一がもうちょい早くに、言葉にしてくれたら良かったんよ!」
「まあまあ、仲良く、仲良く」
言い合いを始める俺たちを、由美がまあまあと押し留める。
「まあ、由美ちゃんと和樹はすっかりラブラブやったみたいやしなー」
「そうそう。ビミョーに、服乱れとったけど、何しとったんかなー?」
しかし、そこは俺たち。からかわれっぱなしで居る程ヤワじゃない。
「……」
「……」
そのからかいに、顔を真っ赤にして黙り込む和樹に由美。
その様子を見て、二人してニヤニヤ笑い。
「とにかくや。作戦成功、ちゅうわけで。恒例のやろか?」
「そやね」
恋人同士になっても、やっぱり、俺達にはこれが似合う。
拳を突き合わせながら、そんなことを思ったのだった。
さて、幼馴染で親友な彼女との恋の駆け引き、いかがだったでしょうか。
二人の生い立ちとか関係には、実は多少実話成分が含まれておりますが、
色々なモデルをミックスしたので、基本的には虚構です。
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