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第2話 18年来の付き合いの幼馴染を卒業旅行に誘った件

「京都旅行。楽しみになってきたわ。ありがとな、沙耶」

「別にウチがしてくてやってるんやし、お礼は要らへんよ」


 こうして、悠一(ゆういち)との電話は切れた。


「ウチがしたくてやってる……ね」


 言ってて、実に白々しいと思う。

 本題は、和樹(かずき)由美(ゆみ)ちゃんをくっつけることではない。

 あの二人は、いずれ、くっつくだろうし。

 私の本音は、悠一を落とすこと。


 私と悠一の間には、東京と大阪という距離の壁がある。

 でも、大学生の間は折に触れて集まれた。


 就職したらそうは行かないのは明白。

 だから、彼を落とすならこれが最後のチャンスなのだ。


 彼、悠一との出会いは、私達が幼稚園の頃に遡る。


◆◆◆◆


 私と悠一が出会った頃の記憶は、結構曖昧だ。

 ただ、一つ、印象に残っている出来事がある。


 少し仲良くなった悠一を私は初めて自分の家に招待したのだけど。

 あろうことか、悠一は私の家の冷蔵庫を平然と漁り始めたのだ。

 私のオカンはカンカンになった。


「悠一君!そこに正座しなさい!」


 と厳しく叱りつけて、2時間あまりお説教を食らわせたのだった。


 悠一は、小学校に入ってからも破天荒だった。

 木枯らしが吹きすさぶ冬ですら、半袖半ズボンで外で元気に遊んでいた。


「悠一は、寒くないん?」


 と聞けば、


「別に寒くないけど?」


 と平然と返ってきた。


 そんな悠一だけど、一つだけ、嫌な所があった。

 彼は、いつでも靴下をしていなかったので、足が臭かったのだ。

 遊びに来る度にする臭いが気になった私はある日激怒。


「臭いから、靴下履くまでウチ来んな!」


 私にそう言われた、悠一の泣きそうな顔は今でも覚えている。


「もし、次、靴下履いてこんかったら、絶交な!」


 そしたら、悠一は半泣きになってしまった。


「靴下ちゃんと履くから。だから、絶交せんといて」


 と、土下座までして謝って来る始末。


「ウチも言い過ぎたわ。絶交は冗談よ?」

「本当に、冗談?」

「本当や。靴下さえ履いて来てくれればええ」


 以後、悠一はちゃんと靴下を履いてくるようになった。


 悠一の性格を一言で言えば天衣無縫。

 いつも好奇心に目を輝かせていて、何かを探求していた。

 そんな所が眩しくて、私は、彼に淡い感情を抱くようになっていた。

 でも、私達の仲は、中学に進学する時に危機に瀕することになった。

 彼の一家が、東京に引っ越すことになったのだった。


「東京に引っ越しても、連絡しよーな、悠一」

「ああ。いつでも東京来いよ、沙耶」


 彼は、自分を取り繕うことはしない性格だったから、嬉しかった。

 だから、中学になってからも、長期休みの度に東京に足を運んだ。

 そして、一緒に東京観光をしたり、悠一の家で遊んだのだった。


 年末年始には、彼の方から大阪に来てくれた。

 泊まる先は私の家で、一緒に年越しをしたのもいい思い出だ。


 高校になれば、バイトでお金を貯められるようになった。

 お金を溜めて、長期休みと言わず、2ヶ月に1回は東京に遊びに行った。

 「沙耶はどうして、そこまで遊びに来るんや?」

 と真顔で問われたのには少し困ってしまった。

 「東京は色々あるやん。だから、や」

 なんて誤魔化したこともある。


 大学に入ってからも、私達の交流は続いた。

 でも、だんだん彼との距離が離れる気がして不安だった。

 だから、成人式には、「こっちの成人式に参加せえへえん?」

 と誘ったのだった。彼は遠くじゃないんだと、そう実感したかったから。


 それから、私達と和樹や由美たちを加えた仲間で集まることが増えた。


 とはいえ、悠一はニブチンだ。

 「いいお友達」な距離感で、いっこうに距離が縮まる気がしなかった。


◇◇◇◇


 今回は、出来れば、告白して恋人になるまで持っていきたい。


 こうして、私の思惑を秘めた京都卒業旅行計画は発動したのだった。


「でも、こうやって卒業旅行ってのもええもんやね」


 暢気に発言するのは、悠一。

 彼は、向かいに座る和樹と由美をくっつけるつもりなんだろう。

 もちろん、彼らがくっついてくれるのは大歓迎。

 でも、今日と明日の本題はそんなのではないのだ。


「悠一も就職しても、たまには大阪戻ってこいよ」


 そんな友情に厚い発言をしたのは、和樹。

 由美ちゃんが惚れるのも納得だ。


「そのつもりやって。和樹も東京に来たら、連絡くれな」

「おう。もちろん、そのつもりやって」


 なんだか、男同士の友情を深めあっている様子。


「ところで、和樹。お前、ええ人おらんのか?」


 悠一が、いよいよ、ちょっかいを出し始めた。


「ま、まあ。今のところはおらへんよ。それより、悠一は?」


 お。思ってもみないボールだ。

 悠一はどう返すのだろう。


「んー。居るには居るんやけどな。たぶん、フリーやないし」


 え?それは初めて知る情報だ。


「ちょい、悠一。それ、初めて聞くんやけど。詳しく」


 私としては、見逃せない問題だ。


「んー。俺が一方的に憧れてるだけやからなあ」


 何故か、私の方を見ながら言う悠一。

 それを聞いたとき、私の心はひどく傷んだ。

 彼は恋愛には縁がないと思っていたから、安心していたのに。


「悠一君はさ。その子と恋人、になりたくない、の?」


 静かに話を聞いていた由美ちゃんが発言する。

 彼女の父親は色々厳しくて、関西弁は行儀が悪いと言って好まない。


「なれればええんやけどね。ま、人気ある子やし、傍観者でええよ」


 何故か、諦めきった表情の悠一だけど、その顔には見覚えがあった。

 自分の幸せは、他の人が笑っていてくれること。

 その好きな子が幸せになってくれれば、と思っているんだろう。

 全く、そうまで思われている誰かさんに嫉妬の炎が湧いてくる。


「そろそろ、鞍馬(くらま)駅みたいだよ」


 由美ちゃんが、ふと、気づいたというように言葉を発した。

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