メタ世界:メタ世界というのをやってみたかったからこっちが今回の本題
メタ世界:神様の間
神様ヒメがおもむろに、世界観という名の盤上からヌッと視点を上げ。対戦相手の神様サキを観やる。駒である世界線航の時間は止まっている。
「さて、始まりました軽くて狭くて短い盤上という名のストーリーテラーと相成りましたわけじゃが」
物語の時間はストップしている。盤上は再び《VS小熊の獣人の前でセーブしました。》の所から始まる、いわゆる駒を置いてセットし直した形だ。
サッカーで言うとゲームが始まって、サキがボールを自陣へバックさせたのでヒメが重火器で選手を滅多撃ちしたところ。ファールになったのでそこからサキボールになった。みたいな感じだ。
「現状確認、小熊ちゃんはどうして『悪いものに憑依されている』んですか? そういう描写があったけど」
ゲームマスターである彼女は、教えても良いし教えなくても良い。だけどチュートリアル的な意味合いもあるので、優しく神妹に教える。
「今回は変に枝葉が伸びないように《神様ヒメが憑依してる》、ということにしておいたぞ」
「ふーむ、なるほど。小熊ちゃんの描写がまだないわね……普段はどんな子なのかしら?」
「回答を拒否する、そこは世界観という名の盤上で調べてみてくれ」
前もって説明しておくと。この作品は異世界ファンタジーループもの、であって。ミステリーの類ではない、したがってクローズドサークルというのも無いし。どちらかというとオープンワールドだ。
「ふーん、やってることはミステリーの真似事なのに。そこはファンタジーなのね」
「どっちかというと、推理ミステリーというより。TRPGをやってる感覚に等しい。プレイヤー・サキが駒を選択して行動して、サイコロとかふって。ゲームマスターであるワシがストーリーを前へ進める。ちがうことと言えば……」
「いえば?」
「前もって基盤となるストーリーを用意してないって所じゃな。いわゆるぶっつけ本番、だがソレもだいぶ慣れたから。多分大丈夫じゃろう、面白いかはちょっと解らんが……」
「斬新ではあるけどね、新しい」
ある意味では使い古されてはいるらしいのだが、ヒメもサキも詳しくメタ世界ものの小説を読んでない。でも雰囲気は解るし、世界の理も二人とも理解している。よって変に気負わずともストーリーは進む運びとなる。たぶん。
「ふーむ、駒も言ってたけど。まだ何にも解んないからなあ~、強いて上げるなら20分後に射殺される。て事だけか~」
神姉ヒメは「ふふん」と鼻を高く上げる。
「どうじゃラスボスっぽいじゃろう?」
「チュートリアルでやってるから、最初のスライムみたいな立ち位置だけどね……」
「ぐぬぬ、そこは致し方ない」
「で、サキはどう駒を動かす? それともサキ自身が〈サブマスター=プレイヤー=駒〉として動く?」
「う~ん。最初だから、もうちょっとだけ世界線航の意志行動を尊重したいかなあ~。だから私から行動するんではなく、放置して見守る」
VRMMOのゲームで言えば、個々の世界観は運営陣サイドとかとよく似ている。なのであまりメタ世界事態はあまり苦にならないのだ。むしろ運営ABCとかモブがこの『神様の間』には居ない、二人だけの空間なのでやりやすいのだ。
話は盤上の話題から外れて身内話に移る。
「ところで、今回は賭け金とかつけるか?」
「最初だからノーレートで良いよ」
「ふむ、まあ無難だな」
で、再び盤上に戻って。神妹サキが神姉ヒメに言う。
「現状、動いてる駒は。世界線航・小熊の獣人・神サキ・神ヒメ・警備員か~」
「サキは実体ありで動いてるが、ヒメは霊体じゃな。実体がないのじゃ」
「ハイファンタジーでクローズドサークルじゃないから、これ以上も人が増える可能性もあるのか。お姉ちゃんは苦にならないの?」
「自由度がある。というよりかは、普通のファンタジー作品ではよくあることじゃ。これぐらいの量なら問題ない」
事実。神姉ヒメはゲームマスターという自覚無しで、10人以上の登場キャラを捌き切った経験がある。それも何度も。そういう蓄積があり、なおかつゲームマスターという自覚もあるから。今回のゲームも操れる自信があるのだろう。
「これプラス、やがては軍団とか。未知の魔法とか、ステータスとか、メタ世界のルールもさばき切るのか……やっぱお姉ちゃんはすごいなあ」
「まあ、これぐらいしかとり得ないし。……、とはいえ。最初の主人公の駒は一般人ステータスかぁ。素手じゃ勝てないな」
「だよねえ、この彼どうするんだろう? あ、助言は良いんだよね?」
「どうぞどうぞお好きに」
「出来ればこの小熊ちゃんパーティーの仲間にしたいのよねえ。何か方法は無いのかしら?」
そこは、普通のRPGにそって……。
「普通に本人に弱点を聞くとか。村人に聞く。とかじゃな」
「ふむ、じゃあその助言をこの駒……航くんにするか。今はお姉ちゃんのターンだけど何か追撃とかしないの?」
もっともな内容であるが、最初のチュートリアルなので変な攻撃はしないことにするヒメ。
「最初だから次のターンは〈いかく〉だけにしとくよ。ターンエンド」
サキが自身の駒の手を動かせるようになった。
「了解、じゃ私のターンね」
そうして、神妹サキは。世界線航の駒を一歩、前進させる……。