変わらない者たち
暁の夜亭に戻ると、そこではシャリーとローゼンが話していた。
「アランさんは今出ていてここにはいないんですよ。」
「そうなのか、戻ってきたら詰め所に来るように言っといてくれねえか?」
「それは別に構わないですけど、ってアランさん?今お戻りですか。」
「ああ、冒険者ギルドとやらに行ってきた。無事に冒険者登録できたぞ。」
「それで二人は何を話していたんだ?」
「それが、この人が、アランさんに何か話があるそうで。」
「なるほどな。それでローゼン、話しとはなんだ?」
「お二人はお知り合いなんですか?」
「ああ、昨日盗賊について話した衛兵さんだ。ここまで案内もしてもらった。」
「なるほど。それでお知り合いだったんですね。」
「まあそういうことだ、シャリーありがとな、もう仕事に戻っていいんだぞ?」
「はい、今日もうちにお泊りになられますよね?」
「もちろんそのつもりだ、この街にいる間は世話になろうと思っている。当然宿泊料も食事代も払うぞ。これ以上シャリーに迷惑をかけるわけにはいかないからな。」
「いえいえ、迷惑だなんてぜんぜん。では私は戻りますね。」
「ああ。」
シャリーは中に入っていった。
「で?ローゼン何しに来たんだ?」
「ああ、昨日盗賊団について話を聞いたろ?もちろん領主様に報告をあげたわけよ。そしたら、アランに興味を持っちまったみたいでな。明日家に呼べと言ってきたんだよ、それでそのことを伝えに来たんだ。もちろん来るよな?」
「すまないが明日行くことはできない。明日は昼にクエストがあるからな。」
「そうか、わかった。一応その旨を領主様には伝えておく。」
「ああ、頼んだぞ。用はそれだけか?」
「時間取らせて悪かったな、じゃあ俺はもう行くぜ。またな。」
ローゼンはそう言い残し去っていった。
なんだろうな、何か釈然としていないようなあの感じは。領主とやらに何かあるのか?考えていても仕方ないか。とりあえず部屋に戻るか。
俺は、部屋戻ってくつろいでいた。
今日はなんだかんだいろいろあったな。本来疲れないのだが何か疲れた気分だ。さて、夕食の時間まではまだあるな。
それにしても、聖リース王国か……あいつは嫌がっただろうな。リースという名前が残るのは。
そういえばシャリーから王国の本を借りていたな。少し読んでみるか。
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吸血鬼との戦いが終わり、帰ってきた女性に愛の告白をする一人の男がいた。
その男は人族の中で聖女と並んで英雄と並び称される男だった。
「リース、戦いは終わった。これからは俺と一緒の時間を生きていかないか?」
それはプロポーズの言葉であった。周りの民衆は絵英雄と聖女の告白を息をのんで見守った。
誰もがお似合いの夫婦になると思った。まさか聖女が断るはずがないと。そう思っていた。
聖女は告白してきた男に思いっきりビンタをかまして言い放った。
「私をリースって呼んでいいのは、この世でたったの一人だけよ。二度とリースって呼ばないで!それに私の心はもう決まっているの。わるいわね。」
その後、その聖女と英雄を中心に人々は集まり、国が作られた。
その女性は最初はいやがったものの、たった一人にしか呼ばせることを嫌がった自身の名の略称を国の名前にすることを最終的には決めたようであった。聖女は生涯未婚のままその生を終えた。聖女の心にいた人が誰であったかはいまだわかってはいない。
国王の座には英雄だった男がついた。その国は長く繁栄をし我々の時代まで続いた。
この繁栄が終わることがないことを、私は祈っている。
----------------------『王国誕生紀』第4章より抜粋---------
はっはっは、やはり嫌がったようだな。それにしてもリースがまさかアジャンに告白されているとはな。
確かにアジャンはなにかと理由をつけてリースに絡んでいたからな。まあリースは嫌がっていたようだが。そうか、リースはしっかりと生きたか。
コンコン
「アランさーん、そろそろ夕食のお時間ですけどどうしますか?」
「ああ、呼びに来てくれてありがとう、だが、明日から呼びに来なくてもいいんだぞ。俺がいない可能性もあるし、なによりシャリーも忙しいだろうからな。」
「そうですね、アランさんも冒険者になっちゃいましたからね。わかりました。」
そんな会話をしながら一階におりていくと、食堂が騒がしかった。
どうやら酒のはいった客同士がもめているようだった。
周りは冒険者同士のけんかに手を出せるはずもなく、見ているだけであった。
これ以上騒ぎが大きくなっても面倒だし、仕方ない、とめるか。
「おい、宿の迷惑をかけるな、喧嘩なら外でやれ。」
ああん、なんだてめぇ!関係ない奴はすっこんでろ。それともてめぇからぶっ飛ばすぞ!
はぁ、これだから酔っ払いは、、
アランがため息をついて、二人を見やる。その瞬間、宿の空気が一瞬で凍り付いた。
一般人は急に静かになった冒険者たちを不思議そうにしていたが、冒険者たちは敏感に感じ取っていたのだ。アランから漂う濃密な殺気に。モンスターでさえ逃げ出しそうなほどの強い殺気に。
ほう、酒が入っていても冒険者か、一瞬しか出していなかったが気づくか。
「まだ喧嘩をしたいなら、俺が相手をするが?」
喧嘩をしていた二人の冒険者は、首をすごい勢いで左右に振りながら、宿からでていった。
喧嘩を何もしていないで止めたようなアランに皆は興味津々であるようだが、そんな視線を気にも留めず、アランは席に着き、シャリーに料理の注文をした。
「シャリー、今日もおすすめのもので頼む。」
呆気に取られていた様子のシャリーだったようだが、アランの注文に我を取り戻したのか、アランに返事をして厨房のほうへかけて行った。
席に座って料理が来るのを待っていると、一人の男が声をかけてきた。
「あのー、私はアントニーと申します。行商をやっているものです。」
行商?ああ旅をしながら物を売り歩く者たちのことか。
「俺はアランだ、それで、行商人が俺に何の用だ?」
「いえね、先ほどの喧嘩の納め方は並みのものではないと思いましてね。あの喧嘩していた者たちは冒険者の方たちでね。しかも冒険者としてのランクはCランク、十分ベテランに入る粋です。だからこそ誰もあれに割って入ることはできなかったのですよ。」
ちっ、飯を食うのに邪魔だったからやめさせたが、それによってまた別の面倒がやってきたな。
「そうなのか、俺も冒険者だからな。止めるのは当然だ。それに、相手のランクなどわからずとも実力が低いのはわかる。」
「さすがですね。なるほど。これがこの街のギルドマスターに試験で勝利し一気にDランクまで上がった冒険者ですか。」
そのことはまだ今日の出来事のはずだ。なぜもう知ってる?あの中にいたのか。聞くのが一番手っ取り早いか。
「なぜ知ってる?」
「私は商人ですので情報には聡いんですよ。情報が足りなくて破滅していった商人など山ほど見てきましたからね。」
「なるほどな。そういうことにしていこう。それで?本題は?」
「いえいえ、優秀な冒険者への顔つなぎですよ、優秀な人とはなるべくつながりを持っていたいですからね。どこかで依頼をお願いすることもあるかもしれませんしね。ではまた。」
そういうとアントニーは離れていった。
その後は特に何事もなく食事をとり、部屋に戻った。
夜の眠りの森にて、うごめく不審な影があった。
なにかコミュニケーションをとっているようである。これが何であるか。明日の調査で判明することであろう。
翌日、アランは正午の鐘に間に合うように鐘の鳴る前に早めに暁の夜亭を出た。
出るとそこには一台の豪華な馬車が止まっていた。中からはいかにも執事な男が出てきた。
「おい、貴様が冒険者アランだな。領主である、マリス様がお呼びだ。ついてこい。」
うん?おかしいな、昨日確かにローゼンに断りを入れるように言ったはずだぞ?どうなってる
「俺は昨日断ったはずだぞ、悪いが行くことはできない。では俺は用があるのでな。」
「おい!まて!マリス様の呼び出しよりも大事なようなどあるわけがなかろう!」
まったくもって面倒だな、こいつはあれか、グロリアスと同じタイプか。本当に、いつまでたってもこういう輩は必ずいるんだな。
「わるいが俺は冒険者なんでな、貴族の呼び出しより依頼をこなすことのほうが重要なんだ。俺は急いでるんでな。」
俺はそう言い放ってギルドに向かい歩き始めた。
さて、こうなるとおそらく…………
「おい、待てと言ってるだろう!こうなったら力ずくでも来てもらうぞ。おいお前ら、軽く痛めつけてやれ。」
はぁ、やっぱりこうなったか。こいつらは本当に変わらないな。
向かってきてるのは、アランにとっては取るに足らない雑魚ばかり、あっという間にアランにひねられて全員倒れた。
「で?終わりか?じゃあ俺は本当に行くぞ。」
「こんなことしてただで済むと思うなよ!必ず後悔させてやるからな!」
そう吐き捨てて帰っていった。
やれやれ、面倒なことになりそうだ。
そこから、露店の串焼きを買い食いしたりしながら、冒険者ギルドに向かった。
よし、軽いハプニングはあったものの何とか鐘のなる前には着けたようだな。サクラはもうついているのか?
軽く見まわしてみると、まだ来ていないようだった。
まだ時間まで少し時間があるからな。時間つぶしに依頼ボードでも見とくか。
お昼の時間だけあって依頼ボードを見ている冒険者は少なかった。
いろんな依頼があるものだな。猫探しに、引っ越しの手伝い、どぶ掃除まであるのか、魔物の討伐依頼もあるし、かなり幅広く活動しているようだな。ほとんど便利屋だな。
アランがボードを見ていると、受付嬢の服を着た、かわいらしい猫の獣人が紙を持って歩いてきた。
「すいませんニャ、少しそこをどいてほしいのニャ。」
「ああ、すまない。それは新しい依頼書か?」
「そうですニャ、朝とお昼に新しい依頼書を張り出しているのニャ。」
「そうなのか、教えてくれてありがとう。お礼に手伝おう。」
「そんな、わるいですニャ、冒険者さんは依頼探しのほうを続けてくださいニャ。」
ああ、俺が熱心にボードを見ていたから、いい依頼がないかと探しているように見えたのか。
「俺は別に依頼を探しているわけではなくてな、パーティで依頼に行くために待ち合わせをしていてな、待っている間の時間にどんな依頼があるのかとみていただけだからな。」
「そうですのニャ?じゃあお手伝いお願いするのニャ。」
ふたりで開いているところに依頼書を張っていった。
ふぅ何とか終わったな、思ったよりも大変な仕事だな、この量を一人でやるとは受付嬢も大変だな。
「何とか終わったな。」
「はい、冒険者さんのおかげなのニャ、お名前教えてほしいのニャ。」
「ああ俺は、アラン。Dランク冒険者だ。よろしく。」
「アランさんってやさしいのニャ、私は猫の獣人、ルリイだニャ。手伝ってくれてありがとニャ。」
「ああ、ルリイね、よろし………」
ルリイの後ろにものすごい形相のセシルがいるのに気づいた。
「ちょっとルリイ?アランさんが手伝ったってどういうことかしら?」
「ニャッ、そ、それはですニャ、私が頼んじゃいました、申し訳ございませんニャ。」
「おいルリイ、俺から申し出たんだ、謝ることはない。セシル、俺が手伝ったら何かまずいことがあるのか?」
「いえ、特にはありません。アランさんが言うのであれば。ルリイ、今回はアランさんにめんじて許しますが次はありませんからね。いいですか?」
「は、はいですニャ。」
セシルはその返事に納得したのかカウンターの奥に戻っていった。
「ごめんな、ルリイ。俺が手伝ったばっかりに怒られてしまったな。この詫びは必ずする。そうだな、今日のクエストが無事に終わったら、一緒にご飯に行こう。」
「いいんですニャ、私は獣人ですからニャ、帝国ほどではありませんが、まだ差別は残っているのニャ。私といたら、アランさんまでよくないことになるのニャ。」
「俺の心配などするな。俺はどうにでもできる。」
俺はうつむくルリイの頭をぐしぐし撫でた。
「やっぱり、アランさんはやさしいですニャ。じゃあ、ご飯ごちそうになるニャ。」
「ああ、そうだな。っとちょうどサクラも来たみたいだ。じゃあ俺はもう行くよ。」
「はい、頑張ってきてくださいですニャ。」
サクラのほうへ行くとにやにやしながらこちらを見ていた。
「どうした?にやけているぞ。」
「べつに~、アラン君がナンパしてると思ってね。こーんなかわいい子と一緒にクエストに行くのにほかの女にも手を出そうとするなんてね~」
「そういうわけではない。少し話していただけだ。では行くか。」
「そうね、依頼の詳しい内容は歩きながら説明するわ。」
俺はうなずいて、サクラと一緒に眠りの森へと向かい始めた。
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