戦闘試験
まずは小手調べと行くか。
『火球』
ゴウッと音を立てながらアランの魔法がアレックスに向かっていった。
「おいおいいきなり無詠唱かよ、なかなかやるな、だがそんな魔法で俺はやれんぞ!」
アレックスはでかい斧を振るい炎の球を切り裂いた。
遅い魔法だとダメか、ならば
『火矢』
「はっはっはーいいねぇ、いいじゃないか!どんどんきやがれ。」
アレックスは火矢すらも斧で切り裂いた。
「俺の魔法を切り裂くとはな、そう簡単にできることではない。それだけでも誉めてやろう。」
「次はもう少し魔力をあげていくぞ。」
『火矢』
それは先ほどの火矢とは量も早さも違うもので、まったく別の魔法といわれてもおかしくはないものだった。
「うおっ、あぶねっ、なんだよそれは!?ほんとにさっきと同じ魔法なのかよ!?」
アレックスは地面を転がりながらなんとか躱したようだ。
「同じ魔法だ、魔力を込める量によって矢の数がふえていくのだ。最大で千本までしか作れないところが改良の余地ありだな。」
「せ、千本!?それだけでも十分すごいわっ!」
「では、まだまだ行くぞ?」
アランはそういうとアレックスに向けて多種多様な魔法を打ち込んだ。
アレックスは時に斧で切り裂き、時にはかわしなんとかアランの魔法を凌いでいった。
す、すげぇ、あのギルドマスターを相手に魔法だけで押してやがる
おいおいそれだけじゃないぞ、あいつのたっている場所を見ろ
立ってる場所がなんだって……う、うそだろ?あいつ試合開始の合図から一歩も動いてないのかよ。
ああ、ギルドマスターってのは誰もが認める功績を立てた冒険者がつく役職だ、うちのギルドマスターは竜殺しを成し遂げてる。いくら引退して衰えてるからって、簡単に勝てる相手じゃねぇ。並みの冒険者ならそれこそ瞬殺だぜ?それをあのアランってやつは一歩も動かず魔法だけで攻め切ってやがる。それだけであいつのバケモノぶりがわかるぜ。
開始前に、あれだけ騒いでいた冒険者たちも、アランたちの試合に見入っていた。これほどの戦いはそうは見られないものというのもあるが、ギルドマスターが勝つとどこかでそう思っていたふしがあったからだ。ふたを開けてみればこの結果だ、これで見入らないほうがおかしいだろう。
魔法だけ打ってても勝てそうな雰囲気もあるが、それだけでは芸がない。俺はエンターテインメントのある吸血鬼。ここは剣も使うか。
「さて、どうだギルドマスターアレックス。体はあったまってきたか?そろそろ魔法を打つだけというのは飽きてきてな。俺の運動に付き合ってもらうぞ。」
冗談だろ、あれだけ魔法使っといてまだ余裕あんのかよ。あんだけ打ちゃ宮廷魔法師でも魔力切れでぶっ倒れてんぞ。だがギルドマスターとしてここで無理ですとは言えねぇよな。
「ああ、ようやくあったまってきたぜ、いいぜ、どっからでもこいや!」
「よく言ったな、では行くぞ。俺から目を離すなよ?」
アランの姿は一瞬にして消えた。気づいた時にはアレックスの背後に回っていた。
そのアランの動きに、気づけていたものは、訓練場にいる冒険者でも数人しか気づけていなかった。
背後からの一撃に斧でガードはしたものの、アレックスは吹き飛ばされてしまった。
マスターが吹っ飛ばされた!!あれだけの巨体で重量もある相手にいくら不意を突いても真横に吹き飛ぶなんてありえねぇぞ!どんな力してやがんだあいつ!
くそっ、ほとんど見えなかった、ガードできたのは正直ラッキーだ、攻撃もあり得ないくらい重い、手がしびれてやがる。これは勝てないな。あいつまだ本気じゃないようだしな。今の一撃で分かった。サクラの言う通りあいつは正真正銘のバケモノだな
「まいった、こりゃだめだ、勝てねぇわ。」
「アレックス降参によりアラン君の勝ち。」
サクラの宣言に会場が静まり返った。
まじかよ、本当にあのマスターに勝っちまいやがったぞ。
あいつをパーティに引き込めたら一気に有名パーテイになれそうだな。
ああ、だがあいつはソロで活動すると言っているらしいからな。そこが残念だな。
「いやー、アランお前とんでもねえな、俺に勝っちまいやがるとはな。」
「それで?俺の試験結果はどうなんだ?」
「あん、そんなもん当然合格に決まってんだろ。」
「そうか、ならばいい。」
「お前は俺に勝っちまうくらいの実力者だからな、普通はGランクから始めるんだが、俺の権限Dランクからスタートだ。」
「いいにか?そんなことをして。」
「いいんだよ、俺はギルドマスターだからな、それくらいの権限は持ってんだよ。」
「もらえるものならもらっておこう。」
先ほど案内してくれた、受付嬢が声をかけてきた。
「それではアランさんはギルドカードの作成を行うので、カウンターの近くでお待ちください。」
「わかった。」
アランは短く返事をして、訓練場を後にした。
「あ、アラン君まってよー、カード待つ間に話があるんだけどー。」
サクラが出ていったアランを小走りで追いかけていった。
その後、集まっていた冒険者たちはそれぞれの行動を始めていた。
「よかったんですかマスター?Dランクまで昇格させちゃって。」
「ああ、あれだけの実力者を低ランクに置いておくほうがまずい、むしろDランクからでも低いくらいだと俺は思うけどな。」
「でもDランクまで上げる時はギルドのマスター会議の時に報告しないといけないんですよね?アランさんに伝えなくてよかったんですか?」
「ああ、確かそんな規約もあったな、にしてもセシルよくそんなこと覚えてたな。」
「当然です、私はギルドマスター補佐ですからね。」
「はっはっは、そうかよ、いつも助かってるぜ。じゃあセシル、アランへの説明よろしくな。」
「はいはい、わかっていますよ。まったく、マスターはしょうがない人ですね。」
カウンターの近くでカード待ちの間、サクラと話していた。
「それで?話とはなんだ?」
「そうそう、私森の調査依頼に行くのは知っていると思うんだけど、良ければ一緒に行かない?」
「一緒に?なぜだ?サクラもソロなのだろう?」
「それが違うのよね、私いつもは二人でパーティ組んでるんだけど、今その相方が体調くずしててさ、アラン君なら実力的にも問題ないっていうかむしろ余裕って感じだし、どうかな。」
ふむ、森の調査依頼か、俺のいた神殿も一度見に行きたいとは思っていたしちょうどいいかもしれんな。サクラにはギルドまで案内してくれた礼もあるし、初クエストもSランク冒険者と一緒となればいい条件かもしれん。
「わかった、その話を受けよう。」
「本当!?ありがとう、一人よりも二人のほうが万が一が減るからね。じゃあ明日、正午の鐘が鳴るころにギルドに集合ね!」
「ああ、わかった。」
とここで受付嬢から声がかかった。
「じゃあ、アラン君また明日ね。」
俺はその言葉に軽くうなずきカウンターのほうへ歩いて行った。
「お待たせしました、アランさん、ギルドカードの発行が完了しました。こちらがギルドカードになります。再発行には銀貨1枚かかるのでなくさないように気をつけて下さいね。」
「わかった。」
ならばなくさないように亜空間に入れておくか。そこならなくす心配はないな。
「では、冒険者についての説明をさせていただきます。冒険者とはギルドに寄せられる依頼をこなして報酬を受け取る人たちのことを言います。依頼の難しさに応じてランク分けがなされています。それと同様に冒険者もランク分けがされておりGランクからSランクまでの8段階に分かれています。ご自身の適正ランクにあった依頼しか受けることはできません。ただし例外もあります。パーティを組んでいる場合です。パーティ内にランクに見合った冒険者がいる場合はランク制限が限定的に解除されます。以上ここまでで何か質問はありますか?」
「いや、特にないな。」
「そうですか、では続けさせていただきます。一度受けた依頼は途中でやめることはできません。依頼を失敗した場合ややめる場合には違約金が発生するので依頼を受ける際には十分お気を付けください。依頼は一度に3つまで同時に受けることができます。冒険者ランクは依頼をこなすことで評価をあげることで昇格試験を受ける権利が与えられます。稀にですが大きな功績をあげると、昇格試験無しでもランクが上がることもあります。今回のアランさんはGからDに上がった形になりますね。この際なんですが、飛び級であがるときには、本部のほうへ報告をあげなければならないので、もしかすると本部から呼び出しがあるかもしれません。ただ、新人がランクをスキップして登録することは多く例があるのでおそらく面倒になることはないと思いますので安心してください。最後に買取になります。冒険者ギルドでは魔物の素材の買取をしています。これは武器や防具の作成に使うからですね。魔物によって売れる部位は違うので確認をお願いします。確認はギルドにおいてある魔物図鑑に記載があります。もしくはこちらのカウンターにいる私たち受付嬢に聞いていただければご説明させていただきます。なるべく調べていただくことを推奨しております。説明は以上になります。何か質問はございますか?」
「依頼やシステムについては理解した。買取はどこに行けばいいんだ?」
「買取のカウンターは受付カウンターの右手側にございます。」
「わかった。ありがとう。早速行ってみるとしよう。」
「はい、申し遅れました、私は冒険者ギルドローズマリス支部のギルドマスター補佐セシルです。」
「ああ、これから世話になる。」
俺はセシルに礼を言い買取カウンターに向かった。
ん?だれもいないのか?買取カウンターはここであっているはずなんだがな。
「おーい、誰かいないのか?魔物の買取をしてもらいたいのだが。」
「おう、今行くからちょっと待ってろ。」
そういわれて待つこと数分、奥から背の低い男性が出てきた。
「どうした不思議そうな顔して、 ああ俺の身長か?俺はドワーフなんだ、ここで買取の鑑定や解体などを請け負ってるグローブだ。で?魔物の買取だったな、魔物は解体してあんのか?」
「いや、解体はしていない。」
「そうか、じゃあ解体からだな。解体費用は買取価格から引いておくがいいな?」
「ああ、それで構わない。かなりの量があるのだがどこに出せばいい?」
「あん?何も持ってないように見えるが、なるほどなマジックバッグ持ちか。じゃあ奥に来てくれ、解体部屋に直接出してくれ。」
「わかった。」
グローブに案内されてカウンターの奥にある解体部屋にむかった。
「ここに出してくれ。」
俺は示された場所にシャリーと会う前に森で倒した魔物を亜空間から取り出した。
「うおっ、おい兄ちゃん、そりゃ魔法か!?マジックバッグ持ちかと思ったがもっと珍しいな。そんな魔法は初めて見たぜ。」
「そうなのか?割と誰でも使える魔法だと思うが。」
「俺は魔法についてはさっぱりだからわかんねぇけどよ、それが珍しい魔法ってことは冒険者ギルドにいるからよくわかるぜ。そんな魔法があるなら魔法使いはどのパーティも必ず欲しがるはずだし、魔法使いがいるパーテイィがマジックバッグを持っているはずないからな。」
「さっきから出てくるがマジックバッグとはいったいなんだ?」
「マジックバッグを知らないのか!?どんな田舎から出てきたんだよ、一番有名なマジックアイテムだぞ?」
「マジックバッグってのは普通のカバンなんだが容量が普通のカバンより大きい鞄のことだ。マジックアイテムってのは今の時代では作ることができない不思議なアイテムでな、現在ではダンジョンから稀に手に入ることでしか入手できないもんなんだ。だからかなりの高額で取引されている。高位の冒険者ならマジックアイテムの装備などを使ったりしているぞ。」
なるほどな、俺が眠っている間にできたものらしいな。それにしてもダンジョンか、この5000年の間にできたものらしいが、どんな場所なのだろうな。いつか行ってみるか。
「っていうかなんて量だよ、、、 おいおいこれは眠りの森の魔物か!?すげえな、なかなかお目にかかれない強力な魔物もいやがる、これ全部兄ちゃんが倒したのか?」
「ああ、そうだが眠りの森?」
「ん?眠りの森も知らないのか?眠りの森はな、この街の近くにある森でな、そこにはあの聖女様の伝説に出てくるアドライト・トワイライトって吸血鬼が封印されているって噂あるんだぜ?本当かどうかはわからないけどな。そもそもその吸血鬼が本当にいたかどうかも怪しいところだがな。まあエルフがいたって言っているんだから本当なんだろうがな。」
「どういうことだ?」
「ああ、エルフは長命な種族なんだ、だから俺たちみたいなドワーフや人族、獣人からすれば遠い昔の話だが、エルフからすれば、少し昔の話ってことだ。さすがに当時から生きているエルフはいないけどな。」
「そういうことか、そうか、もうあの時代から生きているものはいないか。」
やはり5000年という月日は我々吸血鬼以外の種族にすればずいぶんと長いようだな。
「ありがとう、それで解体と換金はいつ頃終わる?」
「これだけの量だ、さすがに今日中には無理だ、明日また来てくれ。」
「わかった、明日依頼で昼頃に来る予定だ、そのときにまた来ることにする。」
俺はそう告げて、冒険者ギルドを後にした。
かなり遅い時間までかかってしまったな。ただ冒険者登録するだけだったんだがな。
よし、暁の夜亭に戻るか。俺は暁の夜亭に向けて歩き始めた。
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